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エレベーターの「4階」を押した。 扉が閉まりかけた瞬間、白い手がスッと差し込まれて止まる。入ってきたのは、薄いベージュのコートの女。髪は濡れていて、雨の匂いがしない。目だけが乾いていた。 女は何も言わず、ボタンの列をじっと見たまま、ゆっくりと「4」を押す。 僕が押したのと同じ階だ。 「同...
保育園の送り迎えって、いつの間にか“顔見知り”が増える。 朝の挨拶、ちょっとした世間話、子どもの靴が左右逆だったね、なんて笑い合う。そういう日常の延長に、彼女、美咲さんはいた。 妻のママ友だ。 最初は感じのいい人だった。身だしなみはいつも整っていて、声はやわらかい。 「奥さん、疲れてない?...
これは、私が知人から聞いた話です・・・・・・ 知人の通う大学にH子(仮名)という女子学生がいるそうです。 そのH子が、ある時から 「あたし、K君(仮名)からストーキングされてるみたいなのぉ。」 と周囲に吹聴して回り始めたそうです。 K君と言えば、明るくて誰からも好かれる大学一の爽やかイケ...
まだ母が若い頃、職場である病院にYさんという変わった患者さんがいたそうです。 その患者さんは、若い女性で何故か数ヶ月おきに入院していて、しかも毎回“不可解な怪我”で入院していたのです。 階段で転倒して足の骨を折った。 家のドアに指を挟んで指の骨を折った。 毎回そんな不可解な状...
島に渡ったのは、取材の仕事だった。人口は千人に満たない。船は一日二便。風が強いと欠航する。そういう場所だと、文章で読んだら「静か」「素朴」と書ける。でも実際は、静かだからこそ目立つし、素朴だからこそ従わせる力が強い。 私は女で、取材の名目がある。だから島の人は親切だった。荷物を運んでくれ、泊...
"常連"という言葉、皆さんはどこをラインとして考えますか? 私は店側の人間がその人をその人だと認識出来るようになった時、初めて"常連"となるのかな、と思っています。 その人の好みは勿論のこと、声で判断出来るようになったり、すれ違った時に認識出来たり、会話が盛り上がったり。 常連って響き、一...
これは祖母から聞いた戦時中のお話です。 村にヨネコさん(仮名)という当時二十歳くらいの女性がいたそうです。 大地主の娘さんで頭の良い女性だったみたいですが、兎に角性格が悪く、性格の悪さが顔にも現れていて、いつも怒っているような顔つきだったみたいです。 子どもだった祖母が通りで挨拶をしても...
一時期、姉がおかしかった。 ある日突然、「最近変なものがよく見える」と言い、続けて「あんたの車、運転席の窓枠から女の首が生えてるよ」と言った。 日頃から楽しい話をしてくれる人だし、テイストを変えてきたのかなと思ったけど、面白くなかったからへぇ〜と流そうとした。 そしたら、「いやマジで。多...
これは私が高校生の頃に実際に親友が体験した話になります。 直接私が体験したことではないので、本当にあったのか真実はわかりません。 でも親友の“状況”的に実際にあったのだと思っています。 だいぶ閲覧注意のお話になります。 その頃、同じ美術部で親友だったアケミ(仮名)には、でき...
「今思えば、彼氏の元カノは“まがまが女”だった」 これは数年前、私がまだ都内でひとり暮らししていた頃の話です。 今でもたまに、玄関のドアスコープを覗きたくなる夜があります。 彼氏の涼(りょう)と付き合いはじめて、三ヶ月くらい経った頃。 彼は優しくて、穏やかで、怒るところを見たことがない人で...
引っ越したばかりの部屋は、きれいだった。駅近、築浅、家賃も相場より少し安い。唯一の難点は、寝室のクローゼットがやけに大きいことだった。奥行きが深く、扉の取っ手だけが妙に冷たい。 最初の夜、寝返りのたびに「すっ」と布が擦れる音がした。風だろう、と自分に言い聞かせた。だが二日目、クローゼット...
幼い頃から憧れていたアニメーション業界に就職した俺は、そこでとんでもない女に出会ってしまった。 俺が当時働いていた会社は都内にあるアニメの背景(風景)を専門に描く会社だった。アニメのキャラクターが活躍する舞台となる、学校や住宅街、宇宙などの背景を描く仕事だ。 大手ではないけれど、昔か...
町に戻ったのは、祖母の葬式がきっかけだった。山に囲まれた小さな集落で、夜は虫の声しか聞こえない。東京での生活に慣れた身には、空気が濃すぎるくらいだった。 葬式のあと、古い同級生たちが公民館に集まり、酒を飲んだ。そこで再会したのが紗世(さよ)だ。高校の頃、よく笑う子だったはずなのに、今は笑う前...
高校のとき、私には「親友」がいました。 美波(みなみ)。明るくて、誰にでも平等で、私が教室で浮きそうになると必ず隣に来てくれる子。 当時の私は、家の事情で朝が弱くて、よく遅刻していました。担任に呼ばれて廊下で説教されると、決まって美波が「大丈夫だよ」と笑って、私の代わりにプリントを揃えておい...
冬の終わり、夜の電車は妙に静かだった。 窓の外は真っ黒で、ガラスに映る車内だけが“もう一つの世界”みたいに揺れている。 僕は座席に座ってスマホを眺めていた。 そのとき、向かいの席に座った女に気づいた。 息をのむほど、きれいだった。 長いまつ毛、整いすぎた鼻筋、肌は光を吸うみたいに白い。化粧...
ミウと付き合い始めて三週間で、俺のスマホは俺のものじゃなくなった。通知が鳴るたび彼女の指が先に伸び、「誰?」「何の用?」と画面を覗き込む。会社の女の同僚に「お疲れさま」と返しただけで、ミウはその晩、俺の指先を握って泣いた。「置いていかないで」と。 最初は愛情だと思った。前の恋で傷ついたらしい...
その温泉旅館は、山あいの川沿いにひっそり建っていた。社員旅行の幹事を押し付けられた俺は、予算と立地だけでそこを選んだ。サイトの写真は綺麗だったし、口コミも悪くない。 ただ、到着してすぐに気づいた。廊下が、やけに静かすぎる。客が多いはずなのに、足音も笑い声も薄く、襖の向こうから聞こえるのは川の音...
地元に戻ったのは、母が入院したからだ。海と山に挟まれた町で、駅前の店は夕方には閉まる。夜は暗い。暗いのに、誰がどこで何をしているかは妙によく知られている。 病院の受付で名前を書いていたら、「紗枝?」と声をかけられた。振り向くと、紬(つむぎ)が立っていた。中学の同級生で、当時から人の世話を焼く...
十月の終わり、長野の山あいの小さな温泉宿は、紅葉目当ての客でぎりぎり回っていた。僕はフロント兼雑用の季節スタッフで、チェックインから布団運びまで何でもやる。都会のホテルみたいに分業がない分、客の顔はすぐ覚える。 その週に来た夫婦も、初日で印象に残った。男は声が大きくて、廊下でも平気で電話する...
夜明け前、震える指で退職代行に電話した。喉が詰まって社名すら言えない俺に、受話器の向こうの女は名乗りもせず、やけに明るい声で言った。 「大丈夫。あなた、優しすぎるだけ。辞めるって言えない人、私が一番得意なんです」 会社名と部署を伝えると、女はすぐ復唱した。言い方が妙に親しい。 「うん、そこね...