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お題 長編
妬み飢え
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妬み飢え

3週間前
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町に戻ったのは、祖母の葬式がきっかけだった。山に囲まれた小さな集落で、夜は虫の声しか聞こえない。東京での生活に慣れた身には、空気が濃すぎるくらいだった。

葬式のあと、古い同級生たちが公民館に集まり、酒を飲んだ。そこで再会したのが紗世(さよ)だ。高校の頃、よく笑う子だったはずなのに、今は笑う前に相手の目を確かめる癖がついている。

「久しぶり。まだ東京にいるの?」

「うん。仕事がね」

そう答えると、彼女は小さく頷いた。頷き方が、承認というより“確認”に見えた。

翌日、祖母の家の片付けをしていると、縁側の下から木箱が出てきた。中には古い札と、藁で編んだ小さな輪がいくつも入っている。輪には赤い糸が結ばれ、札には読みにくい字で「妬(ねた)み餓え」と書かれていた。

気味が悪くて戻そうとしたところへ、紗世が来た。

「あ、それ……捨てないで」

箱を見るなり、彼女の声が少しだけ湿った。

「この辺、昔からあるの。嫉妬に飢えたものを、山に返す札」

嫉妬に飢えたもの。言葉が耳に残った。

その夜、紗世から連絡が来た。「少し散歩しない?」。田舎の夜道は暗い。星明かりと、遠くの家の窓だけが頼りだ。用水路のそばを歩いていると、紗世が急に立ち止まった。

「東京って、女の人いっぱいいるでしょ」

答えに詰まると、彼女は笑った。笑顔なのに、喉の奥が冷える。

「ねえ、嫉妬って, 栄養なんだって。足りないと、痩せるんだよ」

風が吹いた。水路の水面に、白いものがすっと走る。塩みたいな筋。月明かりがそう見せたのだろう、と思った。けれど紗世は、その筋の上を靴先でなぞり、指で少し舐めた。

「まだ薄い」

そう言った唇が、やけに乾いて見えた。

次の日、村で祭りの準備が始まった。俺も手伝いに駆り出され、神社の境内で縄を張ったり提灯を吊ったりした。東京から来た、と言うだけで、誰かが気軽に声をかけてくる。特に、役場の臨時職員だという若い女性が、やたら話しかけてきた。

「都会の人って、歩き方違いますね」

笑いながら言うその声が、境内の空気に浮いていた。

その晩、祖母の家の台所に、濡れた足跡が点々と続いているのに気づいた。裸足の小さな足跡じゃない。大人の、細い踵。足跡は縁側の下へ消えている。

胸が嫌な重さになる。縁側の下を覗くと、昨日の木箱が開いていた。藁の輪がひとつ、なくなっている。

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はじめまして、よろしくお願いします。

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