
金曜の夜、暇つぶしにマッチングアプリを入れた。顔の分かりにくい写真を一枚、自己紹介は薄く。
すぐに「Suzu(25)」から来た。
会話は普通。むしろ気が合う。
ただ、返信が速い。速すぎる。こちらがスマホを持つ前に、次の文が置かれている感じがした。
三日目、Suzuが送ってきた。
「最終ログインが見えるの、好き。いま生きてるって分かるから」
「突然いなくなる人、嫌い」
冗談で流した。
でもその夜から、“当て勘”が気持ち悪い精度になった。
「いま帰り?電車で立ってる」
「右耳だけイヤホンだよね」
怖くなって既読を付けずに寝た。
深夜、通知が連打される。
「ねえ」
「置いていかれる感じする」
翌日、Suzuが写真を送ってきた。
駅のホーム。人混みの中、俺のコートの背中が写っている。撮影位置は斜め後ろ。
「寒いね」
「近くにいると分かる」
血が引いた。
その場でブロックして、アプリも消した。
その夜、SMSが来た。知らない番号。
「ブロックはだめ。いなくなる人がすること」
番号は教えていない。
指が冷えるより早く、次が来る。
「玄関の前、風が冷たい」
「インターホン押していい?」
直後、インターホンが鳴った。
ピンポーン。
息を殺して覗き穴に目を寄せた瞬間、SMSが震える。
「いま覗いた。かわいい」
反射で覗き穴から離れ、すぐ下の鍵を握った。
サムターンを回してみる。動かない。施錠されてる。
チェーンも確認する。掛かってる。指で弾くと金属が小さく鳴った。
大丈夫。入れるわけがない。
そう思った瞬間がいちばん怖くて、俺は背中を丸めてリビングへ戻った。
スマホの画面上部に、あり得ない表示が出た。
「入力中…」
SMSにそんな機能はない。
点が三つ、ふわふわ揺れている。
送られてきたのは一行だけだった。
「ただいま」
その直後、玄関のほうから音がした。
鍵を回す音じゃない。チェーンを外す音でもない。
靴が、揃えられる音だった。
この怖い話はどうでしたか?
chat_bubble コメント(0件)
コメントはまだありません。