
幼い頃から憧れていたアニメーション業界に就職した俺は、そこでとんでもない女に出会ってしまった。
俺が当時働いていた会社は都内にあるアニメの背景(風景)を専門に描く会社だった。アニメのキャラクターが活躍する舞台となる、学校や住宅街、宇宙などの背景を描く仕事だ。
大手ではないけれど、昔からあるそこそこ有名な会社で、社長は女性の方だった。学生時代に聞いてはいたけれど、アニメーション業界、特に背景家と呼ばれる俺が就職した業界は、とにかく女性が多かった。
俺が就職した会社も社員数が二十人くらいで、驚いたことに、俺以外全員女性だった。
「以前は男性もいたんだけど、不思議とみんな辞めちゃうの」
社長は少し気まずそうにそんなふうに話していた。
もしかすると男性には合わない職種なのかもしれない。そんなふうに解釈しつつ、俺は背景家としての仕事を始めた。
女性ばかりの職場だったけれど、俺が誰かと親しい関係になることはなかった。
何故なら俺には高校生の頃から交際していた女性がいたから。
それにそういう業界だからかもしれないけれど、基本的に俺の会社にいた女性たちは、アニメの世界の男性に夢中の方ばかりで、俺と積極的に仲良くなりたいと思うような女性はいないようだった。
俺は男一人という状況だったけど、職場での環境でそこまで不便は感じなかった。みんな良い意味で他人に無関心な人ばかりだったし、とにかく仕事が忙しかったから。
有名な話だけど、アニメーション業界は締め切りにとにかく追われる。今は改善されているのかもしれないけれど、俺がいた十年くらい前は、会社に泊まり込むことなんてしょっちゅうだった。
そしてある時から俺はとある女性が俺のことをしょっちゅう見ていることに気がついた。その女性は“ゴスロリ系”の服装をした二十代の人だった。
ゴスロリ系というのは黒を基調としたダークな精神世界を表現した服装を好む人たちのことで、その女性はもろにそれだった。黒の口紅に黒いネイル、厚底でチェーンだらけのジャラジャラしたブーツ。勿論黒髪で腰まで伸ばしていたし、手首にはリストカットを隠すかのように、真っ赤な手錠みたいなリストバンドをしていた。
それはあきらかに職場で浮いた存在だった。
締め切りさえ守れば特に問題のない世界だったから大丈夫だったのだろう。他の職種だったらまずアウトだったはずだ。
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