
今朝、駅前のパン屋で会計してたら、後ろから「え、久しぶり」って声。振り向いたら、同じマンションの隣棟の美琴(みこと)。エレベーターでたまに見かける人。ちゃんと話したことないのに、こっちの生活だけ把握してる感じの人。
「この時間なんだ。いつも何個買うの?」
いや、その質問ナチュラルにキツい。雑談っぽいのに、生活のパターンを確認されてる感じして普通に無理。
会社着いたら総務に呼ばれて、「あなた宛に荷物です」って。差出人空欄。中身、ハンドクリームとメモ。
『手荒れる季節だし。無理しないで』
優しいっぽい文面なのに、背中が冷える。こういう“当然の距離感”で入ってくるのが一番こわい。
昼休み、彼女の紗季(さき)に「今夜、家でごはん食べよ」って送った。既読ついて返事「了解」だけ。え、短。紗季、絶対スタンプとか絵文字つける人。違和感やばくて電話したら、出たの紗季じゃない。
「今、取り込み中です」
女の声。めっちゃ淡々。
「誰ですか?」って聞いたら、
「近くの者です。今日は休ませます」
で、ブツって切られた。いや“休ませます”って何? 人の予定を勝手に?
急いで帰ったら、マンションのエントランスに美琴いる。宅配ボックスの前で鍵いじってて、俺を見た瞬間ニコってする。にっこりの圧が強い。
「早いね、今日直帰?」
「紗季と連絡つかなくて…」
言った瞬間、やらかしたって思った。美琴の目が一瞬だけ光る。いや光るな。
「大丈夫だよ。あの子、疲れてたでしょ」
“あの子”って言い方。知ってる前提。いつ見た? どこで覚えた?
部屋入ったら、玄関のたたきに濡れた足跡がある。俺のじゃない。小さめで、踵が細い。奥まで続いて、途中で消えてる。
キッチン行ったら、見覚えないコップが伏せてあって、水滴がまだ残ってる。さっきまで誰かいたやつ。
そのタイミングでチャイム。のぞき穴、美琴。小さい袋持ってる。
「さっき言いそびれた。これ、よかったら」
断るつもりだったのに、なんか声が出ない。てか鍵かけてたのに、ドアノブがゆっくり回る。ガチャって。開く。俺、触ってない。
美琴、普通に入ってきて靴そろえて、勝手に部屋の空気に馴染む。慣れすぎ。で、キッチンの奥チラって見てから言う。
「紗季には、もう連絡した。今日は来ないって」
「は? 何言ってんの」
「だってさ、あなたが他の女に触れられるの、普通に嫌じゃん」
後日談:
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