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鏡の数が増える家
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鏡の数が増える家

11時間前
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あの夏の記憶には、最初から欠落がある。

思い出せない部分があるのではない。

思い出してはいけない部分が、最初から折り畳まれている。

小学五年の夏、私は母方の祖父母のいる山間の集落で過ごしていた。五十人にも満たない人間が暮らす場所で、外から来た子供は私ひとりだった。すぐに、年上の少年二人と、年下の少年一人が遊び相手になった。

四人で行動するようになってから、遊びは自然と危険な方向へ寄っていった。

川、山、林道。

大人に見つかると怒られる場所ほど、面白く感じられた。

集落には、理由を説明されない禁忌が二つあった。

森の奥の祠と、墓地を越えた先の道だ。

祠には行った。

何も起きなかった。

その「何も起きなさ」が、次の選択を後押しした。

墓地を抜けた先には、鎖で塞がれた道があった。終点は川で、そこから先は行き止まりだと聞かされていた。だが、藪の中に踏み分けられた跡があり、辿ると吊り橋が残っていた。

誰が使っていたのかは分からない。

使われている形跡もなかった。

橋を渡った先に、家があった。

二軒。

道を挟んで向かい合い、その周囲だけ、木々が不自然に開けていた。

家の中に、生活の名残はなかった。

代わりに、鏡があった。

部屋ごとに一つずつ。

姿見、小ぶりな鏡、割れた鏡。

どれも、誰かが「そこに置いた」ような位置にあった。

鏡の前には、箱や包みがあった。

封はされていたが、古く、触れれば簡単に壊れそうだった。

誰も触れていないはずの箱が、開いていた。

気づいた時には、鏡が一つ倒れていた。

裏返った鏡の裏に、文字があった。

文字と呼ぶには曖昧で、意味を読もうとすると、視線が滑った。

次に意識したのは、人形だった。

家の奥にあったはずの人形が、玄関に立っていた。

動いた瞬間は見ていない。

だが、置かれたとも思えなかった。

誰かが叫んだ。

誰かが動けなくなった。

誰かが箱に縋りついていた。

私は、もう一人と一緒に外へ逃げた。

集落に戻った時、空は夕方だった。

出た時刻との整合が取れなかった。

その後のことは、断片でしか覚えていない。

大人たちの顔。

怒鳴り声。

泣き声。

誰かが、何も言わなくなった瞬間。

その夜、私は神社に連れて行かれた。

何をされたのかは、順序立てて思い出せない。

ただ、吐いたものの色だけは、はっきり覚えている。

翌日、私は集落を離れた。

それきり戻っていない。

後になって、あの家に向かった者がいたと聞いた。

理由は分からない。

助けに行ったのかもしれないし、呼ばれたのかもしれない。

結果だけが残った。

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