
私にとって母は特別な存在だった。彼女の誕生日を祝うため、家族全員で出かけることにした。母、父、叔母、いとこ、そして私の5人は、大きなバンに乗り込んだ。目的地は山奥の小屋で、雪が降り積もる道をいくつも越えて行かなければならなかった。
楽しい時間を過ごした後、帰り道に差し掛かった。その時、父が運転していたバンが突然、音を立てて停まった。「タイヤが滑ったか。少し待っててくれ」と言って、外に出て行く。私たちも心配になり、次々と外に出た。すると、父の様子が変だった。
「大丈夫だ。ただ、チェーンが外れてしまっただけだ」と言ったが、私には何かおかしい気がした。周囲は静まり返り、雪が舞い落ちる音しか聞こえなかった。公衆電話などないこの山中で、どうすればいいのか不安が募った。父はしばらく考え、近くの小屋まで歩いて行くことを提案した。
「私も行く!」と叫ぶと、みんなが驚いた顔で見る。母が心配そうに「危ないから、待ってなさい」と言うが、私は意地を張った。「行かせて!」と。父はため息をつき、私を連れて行くことにした。
雪道を歩き始めると、ヘッドライトの明かりが頼りだった。しかし、すぐに道は真っ暗になり、街灯も見えなくなった。周囲は静まりかえり、車の音も聞こえない。なぜこんなに静かなんだろうと不安になり、ふと顔を上げた瞬間、反対側に人影が見えた。動揺して父の手を強く握った。
「大丈夫?」と父が尋ねる。「うん」と答えるが、心臓が高鳴る。人影はすぐに消え、私はまた歩き続けた。トンネルを抜けると、少し明るくなった。が、再びあの人影が目に入る。「見ないほうがいい」と父が言った。
さらに歩くと、後ろから車の音が聞こえてきた。安心して振り返ると、車の中にいるのは家族ではなく、全く見知らぬ人たちだった。通り過ぎた瞬間、彼らは大声で笑いながら私を見ていた。何が起きているのか分からず、ただ恐怖に震えた。
「行こう」と父は私をおぶり、再び歩き始めた。小屋に着くと、期待した家族の姿はどこにもなかった。何も考えられず、ただ呆然としていた。やがて、父が他の親戚に連絡し、迎えをお願いした。車が来るまでの間、私はその出来事を理解できずにいた。
後に、親戚たちが笑い話にしているのを聞いた。タヌキやキツネに騙されたのだと。しかし、私の心には一生消えない影が残っている。あの山道で見た、笑い声と共に消えていった人たちの姿が。彼らの顔は、母や父、家族の顔にそっくりだったから。
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