
冬の薄曇りの昼、若いビジネスマンの佐藤は、仕事が終わった後、同僚の田中と高層ビルの屋上でのんびり過ごすことにした。人々が行き交う街を見下ろしながら、彼らは仕事の愚痴を言ったり、笑い合ったりしていた。屋上は静寂に包まれており、風の音だけが心地よく響いている。
そのとき、佐藤は古びたカメラが置かれているのを見つけた。誰が置いたのか分からず、気になった佐藤は、カメラを手に取ってみた。レンズには埃が積もっており、シャッターを押すと、カシャリという音がした。「これ、誰のだろうな?」田中は不思議そうに覗き込む。佐藤がレンズを通して周囲を見回すと、なぜか視界に入ったのは、ビルの窓の中に一瞬だけ映る女性の姿だった。彼女は無表情で、ただこちらを見つめている。
「俺、あの窓の中に女の人がいたぞ」と佐藤は言ったが、田中は笑って「そんなわけないだろ」と返す。だが、佐藤はその不気味さに気を取られ、再度シャッターを切った。すると、再び女性が映った。今度は一歩近づいて、目を細めて見つめている。恐怖を感じた佐藤は、カメラを下ろした。
「気のせいだろ」と田中が言うが、佐藤はもう一度カメラを覗き込む。今度は女性がじっとこちらを見つめている。血の気が引いた彼は、思わずカメラを落とした。カメラが地面に落ちた瞬間、周囲の空気が凍りついた。何かが変わったのだ。
田中が驚いて振り返ると、佐藤はその場から動けなくなっていた。目の前には、さっきまで窓の中にいた女性が立っていた。彼女の顔は無表情で、ただ呆然とこちらを見つめている。その瞬間、佐藤は自分の目がびっくりするほど大きくなり、心臓が止まるかと思った。
一瞬の静寂の後、彼女は口を開いた。「もう、帰れないよ」と。瞬間、佐藤の意識が途切れ、すべてが闇に包まれた。田中は混乱し、何が起きたのか分からなかった。ただ、佐藤の姿が消え、静寂だけが残った。屋上の空気は、あの古びたカメラが見せたものとは正反対の、何か恐ろしいものに変わっていた。
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