
冬のある夜、雪が静かに舞う廃村の道を、一台のタクシーが進んでいた。運転手の佐藤は、後部座席に座る女性の不気味な存在感に気圧されていた。白いフードに包まれ、顔が見えないほどに覆い隠された彼女は、時折、運転手の目をバックミラー越しに捕らえる。その度に、佐藤は不安な気持ちが高まった。
「どちらまで行きますか?」ようやく口を開いた佐藤。
「村の外れまで……」女性の声は低く、どこか冷たい響きがあった。
村の外れには、誰も住まない廃屋があることを知っていた佐藤は、不安を感じつつも無言で運転を続けた。
車が村の奥へ進むにつれ、雪はますます激しくなり、ライトの明かりが薄れていくような感覚に襲われた。やがて、タクシーはかろうじて見える廃屋の前で止まった。
「ここでいいです」と女性は静かに告げ、運賃を渡して車を降りた。佐藤は彼女の不気味な後姿を見送りながら、胸に降りかかる重い不安を感じていた。
翌朝、気になった佐藤は再びその場所に向かった。しかし、そこには廃屋など存在せず、ただ白く雪に覆われた空地が広がっているだけだった。
村に戻り、年老いた村人に話をすると、彼は驚愕の表情で語り始めた。「あの廃屋か……50年前に火事で焼け落ちた場所だよ。そこに住んでいた女が、過去を隠すために自ら火を放ったという言い伝えがある。そして、彼女は時折、乗客として現れるんだ……」
佐藤はその夜以降、その廃村には二度と近づかなくなった。しかし、時折彼の夢の中で、あのフードをかぶった女が静かにこちらを見つめているのを感じるのだった。彼女の視線は、まるで彼を追い詰めるかのようであった。
彼はその夢から逃れられないまま、日々を過ごすことになる。彼女は決して忘れられない存在となったのだ。
彼女はいつも、どこかで見守っているのだろうか。
はっきりとした正体もわからぬまま、彼の日常に影を落とし続けるのだった。
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