
短編
幽霊エレベーター
匿名 2日前
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私は子供のころ、某県のマンションに住んでいた。
そのマンションはそれなりの築年数が経過した古いタイプだが、建物自体は大きくて多数の世帯が入居していた。
大規模なマンションということで、エレベーターは館内複数の場所にある。
1つ目は正面入り口の近くで、大きめのものが二基設置されていた。
そして、2つ目は正面入り口から見て、奥まった場所にある。
1つ目との違いは若干小さめのつくりで、一基のみの設置ということだ。
おそらく、マンション住民しか気づかないであろう、奥のほうに寂しくポツンとあった。
正面入り口近くのエレベーターは、昼夜問わず多くの住民が利用する。
それに対して、奥にある小さいエレベーターは昼間でも使う人を見かけたことがない。
建設会社としては、1ヶ所だけでは不便だろうと、2ヶ所目のエレベーターもつくったのだろう。
しかし、実際は誰も使わない。住民に存在を忘れられた、あるいは意図的に無視されているような変なエレベーターだった。
なぜ、そのエレベーターを誰も使おうとしないのか。
私が子供心に感じたことは、単純に「不気味」だからである。
実際、昼間でもエレベーター周囲は薄暗く、内部も陰気な暗い照明、狭い空間なのが見えた。
使う人がほとんどいないため、管理が行き届いていないのか、明かりがチカチカと点滅して消えかかっていることもあった。
所用でその近くに行くときは、早くそこから離れたい衝動に駆られたほどである。
・もし、あの薄暗くて狭いエレベーターの中で、知らない誰かと二人きりになってしまったら…
・もし、エレベーターに乗った後、途中で止まって閉じ込められてしまったら…
・もし、真夜中にあのエレベーターに乗ることになったら…
悪い意味で、次々と想像を掻き立てる力があった。
それは、場の持つ雰囲気による影響だろうか。エレベーターとその周辺空間だけ、暗く異質に感じられた。
まだまだ昭和の空気感が残っていた時代。
オカルトを本気で信じている人も多くいた時代。
今ほどは洗練されていなかった時代。
小さいときは、そんな時代だった。
当時の雑多な記憶とともに、あのエレベーターは脳裏に刻まれている。
感傷的で、古ぼけていて、淡く思い出される。それはまるで、夢でも見ている気分-。
そのような感覚含めて、私にとっては「幽霊エレベーター」なのである。
後日談:
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