
高校生の頃、父と共に冬のキャンプに出かけた時の出来事を語りたい。体験者は父だけで、私が後からその話を聞いたものだ。
毎年冬になると、父と一緒に二泊三日のキャンプに出かけていた。場所は静岡県の山中や、時には愛知県の山々に行くこともあった。特にお気に入りの場所があり、そこには毎年のように通っていた。
その年は特に寒い冬で、父は古いバンにキャンプ道具を詰め込んで夜に出発した。車の中ではいつものように懐かしい曲が流れ、私はワクワクしながら目的地へと向かっていた。
初日は無事に道の駅で仮眠を取り、翌朝には新鮮な食材を買い込んでキャンプ場へ向かった。キャンプ場での楽しみを終えた後、父は「今夜はあの場所に行こう」と言った。その場所は去年見つけた古い峠の頂上で、満天の星空が見える穴場だった。
峠に入ると、異様な霧が立ち込めていた。真っ暗な山道を進む中、霧は一層濃くなり、不安を掻き立てるような感覚が漂っていた。父も同じように感じていたのだろう、口に出さずともその気配を感じ取っているようだった。
それでも無事に頂上に到着し、窓を開けて星空を眺めると、安堵感に包まれた。寒さと静寂の中で、しばらく星々を見つめた後、車に戻って眠りについた。
だが、夜中に不思議な音で目を覚ましたのは父だった。運転席の窓から“コンコン”という音が聞こえたのだ。ぼんやりとした意識の中、父は窓の外を見ると、そこには白いドレスを着た女性が立っていた。彼女は赤ん坊を抱えており、困っている様子でこう言った。
『この山で迷ってしまって、今晩だけ一緒に車に入れてもらえませんか?』
父はこの状況に恐怖を抱きつつも、寝ぼけたまま「いや、無理です」と答えた。その瞬間、女性の表情が変わり、腕を窓の隙間に突っ込んできた。驚愕する父の目の前で、彼女の腕は不自然に伸び、鍵を開けようとしたのだ。
父は恐怖に駆られ、必死に鍵を押さえつけたが、意識が遠のく中で彼女の手が鍵に達する感覚を感じた。そして、次に目覚めた時には、周囲は明るくなり、女性の姿はどこにもなかった。夢だったのか現実だったのか、混乱した父はその夜の出来事をずっと忘れることができなかった。
その話を聞いた時、私は背筋が凍る思いをした。冬の夜、静寂の中で響く父の声と、ヒグラシの声が交錯し、寒気が背中を走るようだった。
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