
中編
絵本読んで
匿名 2016年9月28日
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中学一年の夏休みが始まる一週間前、私は初めての入院を経験した。
その時のお話し
市内の大きな病院に入院となった私の病室はナースステーションの目の前で忙しく働く看護師が見えた。
窓の外を見れば、山の風景しか見えずとても、退屈だったが、朝に、母親が着替えやゲーム機、本などを持ってきてくれるので少しは退屈を免れた。
しかし、個室じゃない私の病室は、他に患者さんがおらずやはり退屈になってしまった。
私は点滴に繋がれており、あまり院内で出歩くなと医者に言われていたが、こっそり病室を抜け出して、休憩スペースに置いてある漫画や本を取りに行った。
「……ん?何これ」
お気に入りの漫画を手に取り病室に戻ろうとした時、一冊の絵本に目が止まった。
それは、“眠り姫”だった。
その、絵本は表紙は綺麗だったのに背表紙は黒く塗りつぶされており読めなかったのだ
なんとなく、気持ち悪かったので本棚に戻し病室に戻ると、しかめっ面の看護師が立っていた。それから、暫くお小言をくらい、夕食の時間になる時は絵本の事など忘れてしまった。
次の日、いつものように昨日借りた本を読んでいると、女の子がやって来て、絵本を読んでくれと頼まれた。
隣は、小児科病棟だったのでここに迷い込んだのかな?と、思いつつ女の子から手渡された絵本を見てギョッとした。
それは、昨日見つけた。背表紙を黒く塗りつぶされていた“眠り姫”の絵本だった。
「どうしたの?早く、それ読んでよ」
ニコニコと早く読んでと言う女の子に、私はしょうがないと思いながら読んであげた。
私が読むのを真剣に聞いてくれるので、私も心を込めて読み上げた。
あれから、どの位時間が経ったのだろう。
ふと、思い時計を見てみると、6時を指していた。
そろそろ、夕食の時間になると思い。
女の子に自分の病室に帰るように言うと
「……帰っちゃうの?」
と、逆に聞かれてしまった。
ここは、私の病室なので帰るも何もここなんだけど、と困惑してると
「みんな、待ってる人がいるから帰っちゃうの……折角、遊んでくれる人を見つけたのに、友達になれると思ったのに
みんな、私を置いて帰っちゃうの。
私は帰る場所なんてないのに」
ニコニコと崩れない笑みのまま淡々と語る女の子に私は、黙ってその子の話しを聞くしかなかった。
体は、動かず。視線も反らすことは出来なかった。
「だからね、私考えたの!
この、絵本みたいに相手を眠らして閉じ込めちゃえばいいって、そうすれば帰れないし私とずっとここで遊べるでしょう?」
一際、キラキラとした瞳で言い放った女の子はまるで、いいことを思いついた無邪気な子供の顔だった。
さっきまでは、人形のように感情がなかったのに……
「(この子は、そんなに友達が欲しかったんだ……)」
今思うと、どうしてこんな事を思う余裕があったのか分からなかった。
しかし、友達が欲しい気持ちや一人置いてかれる寂しい気持ちが自分と重なって、その女の子の事を放っておけなかった。
「友達が欲しいのなら私がなってあげるよ」
「本当に?そう言ってみんな、帰りたいが為のウソだったよ」
「ウソじゃないよ。
それと、友達は家に帰るけどまた、遊べるよ。閉じ込めなくてもまた会えるよ?」
そう言うと、今まで動かなかった体が動いた。
目の前にいた女の子は、満面の笑みを浮かべ
「ありがとう」
意識が遠く中、微かにそう聞こえた。
「先生、患者さんの意識が」
「〇〇(私の名前)さん、聞こえますか?」
「……良かった。本当に」
目を覚ますと、看護師や医者、両親が私の顔を覗き込みホッと安堵していた。
聞けば、私は3日も昏睡状態に陥っていたらしい。
あれは、夢だったのか……
本棚を見に行ってもあの絵本はありませんでした。
これが、入院して一週間の出来事です。
やはり、病院は不思議な出来事が起こるのだなと実感しました。
そして、入院生活の不思議な話しはこれだけではありませんでした。
その話しはまた今度、お話しします。
ここまでお付き合いありがとうございました。
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