
「あれはまるで悪夢のようだった」
ボランティアの佐藤は、雪深い山間の村に住んでいた。地域の防災活動に参加し、特に冬の荒天時には村の安全を確保する役割を担っていた。その年の冬、特にひどい嵐が襲った。
外は吹雪が続き、村は雪に埋もれていく。積雪による土砂崩れや氷の川の氾濫が心配され、村人たちは避難を余儀なくされていた。佐藤は、仲間のボランティアたちと共に、村の見回りに出かけた。
悪化する天候の中、彼らは村の外れにある小さな川へと向かうことになった。この川は、近くのダムから流れ出しており、嵐の影響で増水していた。川幅は狭く、氷のように冷たい水が轟音を立てて流れていた。
「この状態では、危険なことになるかもしれない」佐藤は仲間に警告し、川の側へ近づいた。すると、突然、耳をつんざくような音が響いた。「あれは何だ?」と、仲間の一人が不安そうに言った。音は、まるで氷が割れ、流れが変わるような不気味な響きだった。
その瞬間、上流から異様な光景が目に飛び込んできた。人々が、まるで水中から引き上げられるかのように現れたのだ。佐藤は目を疑った。彼らは全員が無地の白い服を着ており、表情は無表情だった。
「なんだ、あれは…?」仲間の一人が震える声で呟いた。彼らは流れに逆らうように、氷の川を渡る姿を見せた。しかし、何かが違う。流れているのは生きた人間ではないかもしれない。
数十人が、氷のように冷たい水の中を漂っていた。無表情の彼らは、まるで生きているかのように見えたが、目の焦点はどこにも合っていない。佐藤は恐怖で動けなかった。目の前で繰り広げられる光景は、まさに地獄そのものであった。
「逃げろ!」佐藤は仲間を叫び、急いでその場を離れた。しかし、川の流れが変わると共に、あの人々は忽然と姿を消した。何が起こったのか理解できないまま、彼らは村へと戻った。
村に戻ると、ボランティア仲間たちは異常な静けさに包まれていた。誰もがあの不気味な光景を思い出し、言葉を失った。後に村人たちが集まる場で、佐藤はその出来事を語ったが、誰もが彼の言葉を信じることができなかった。
「それはきっと、雪に埋もれた村人たちの霊だ」と一人が言った。村には伝説があり、雪の中に埋もれた人々が、春を待っているという話があった。彼らは、冬の嵐が来る度に姿を現すのかもしれない。佐藤の見たものは、ただの幻影だったのかもしれない。しかし、彼の心には、あの光景が深く刻まれていた。
後日談:
後日談はまだありません。
この怖い話はどうでしたか?
chat_bubble コメント(0件)
コメントはまだありません。

