
これは私の妹の物語。
妹は今年で七歳になった。私には兄弟がいなかったので、彼女が生まれたときは嬉しかった。年の差は十歳。親が計画していたわけではないが、私にとっては幸運の出来事だ。妹は私を「お兄ちゃん」と呼び、私もそれを喜んで受け入れていた。
しかし、妹の様子が少しおかしくなったのは、彼女が六歳の冬のことだった。ある日、学校から帰ると、妹が古びた人形を持っていた。
「お兄ちゃん、これ、私のお友達だよ」
その人形は、目が真っ黒で、笑った顔に見えた。何か不気味なものを感じたが、妹は楽しそうだった。
「お兄ちゃん、約束したよね?」
「約束?」
妹はにっこり笑って言った。「この子と一緒に遊ぶって、指切りしたじゃん」
私は思い出せなかった。そんな約束をした覚えがない。しかし、妹はその人形を握りしめ、毎日同じことを繰り返した。人形を通じて、私に約束を守らせようとしているようだった。
ある晩、妹の部屋で見つけた日記には、こう書かれていた。
「あなたは私との約束を忘れてしまったようですね。人形がいても、約束は守れないのですね。」
その文を読み終えると、ぞっとした。妹は人形に向かって話しかけるようになり、彼女の笑顔は日ごとに歪んでいった。
夜、母が言った。「あの子、寝る前に“お兄ちゃん、約束守ってるよね?”って言うの。優しい子ね」
私は違うと心の中で叫んだ。私が守るべき約束は、妹が言うようなものじゃない。彼女の目は、まるで誰かを待っているようだった。
その翌日、私の部屋に一枚の紙が置かれていた。そこにはこう書かれていた。
「次の約束は守るように。あなたを許さないから。」
今、妹と一緒にリビングでお茶を飲んでいる。彼女はその人形を抱きしめ、私を見上げてにこにこ笑っている。
「約束したよね、お兄ちゃん?」
その瞬間、背筋が凍る思いがした。約束とは、私が思うものではないのだ。妹の笑顔の奥に潜む影が、私の心を締め付けていた。
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