
小学生の頃、両親は共働きで、どちらも病院勤務でした。
私たち家族は病院の社宅に住んでいて、建物はかなり古く、今思えば老朽化も進んでいました。
父は当直が多く、夜はいないこともしょっちゅう。
そんな日は、母と弟と私の3人で、文字通り川の字になって寝ていました。
私は当時から心霊現象や怪談が大好きで、テレビの特番もよく観ていました。
でもそれとこれとは別で、いざ寝る段になると怖くて仕方がありませんでした。
社宅では虫が出るし、隙間風で建て付けの悪い窓が鳴る。
古い冷蔵庫が急に起動して「ブゥーン…」と唸り出す。
眠りにつくまでの時間は、いつも身を縮めながら耐えていました。
暗闇なんて論外だったので、寝室の室内灯は消さず、
長い紐を何度か引っ張って、オレンジ色の柔らかい光になる状態にして眠っていました。
その夜も、なかなか寝付けませんでした。
寝返りばかり打っているうちに、母と弟は早々に寝息を立て始めます。
それがまた、私の焦りを増長させました。
私たちの部屋は社宅の1階で、しかも道路沿い。
夜でも車の走行音が聞こえ、酔っ払いの叫び声、若い人の喧嘩の声が入ってくることもありました。
でも、その夜は――
そういう“いつもの生活音”とは違う音が聞こえたんです。
動物の鳴き声ではありません。
確実に人間が出している音でした。
ただ、言葉じゃない。
普通そんな音を出す人はいないはずの、妙な声。
「んー……んー……ほっ!」
最初は遠くからでした。
頭のおかしい人なのか、ふざけているだけなのか。
そう思おうとしても、音がどうにも不気味で、うまく納得できません。
(あの音が近づく前に寝なきゃ)
そう思えば思うほど焦って、眠れなくなる。
そして、その焦りを嘲笑うように――
「んーんー!……っほ!」
あの音が、また聞こえました。
確かに“同じ音”。
しかもさっきより近い。
私は布団を頭からかぶり、震えながら息を潜めました。
音は少しずつ、でも確実に近づいてきます。
外を歩いているような気配。道路側から、こちらへ寄ってくる感じ。
「んー……んー……ほっ!」
怖い。
近い。
息ができない。
そのとき――
ガバッ!
部屋の中で、誰かが勢いよく起き上がるような音がしました。
(母だ!)
そう思った瞬間、あの奇妙な声がピタリと止まったんです。
母が起きたことで、何かが怯んだのかもしれない。
邪気が払われたのかもしれない。
私はホッとして、布団の中からそっと体を起こしました。
でも――
誰も起きていない。
母も弟も、同じ姿勢で熟睡していました。
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