
長編
偽リナキ体験談
まなみ 8時間前
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、男は来たんです。
まっすぐ他には立ち寄らず、婦人服売り場にある、女性用下着売り場のコーナーに。
逃げました。
エスカレーターを駆け足で降りました。
足がもつれこけそうになりながらも、私は走りました。
ですが、私は子供だったのです。
浅はかで、たいした知恵ももたない、衝動的に身動きしてしまう、矮小な子供だったのです。
デパートを出た私は、何を思ったのか、そのデパートの裏に逃げ込んだのです。
そして目の前にある、赤茶けた錆まみれの非常階段を駆け上がったのです。
無我夢中で昇りました。
来ないで、来ないで、来ないで!
何度も胸の内でそう叫びながら、上へ上へと駆け上ったのです。
やがて行き止まると、4Fと書かれた鉄の扉に手を伸ばしました。
ガチャガチャと鈍い金属音が響きます。が、扉は私の意に反して開きません。鍵がかかっていたのです。
当たり前ですよね。ですがそんなことすら、当時の私は予測できなかったのです。
扉のドアノブから手を離しました。一瞬静まり返ります。が、
カンカンカンカンカン、
下から音が響いてきます。
靴音でした。
カチカチと音が鳴ります。私の歯音でした。歯と歯がすごい勢いで触れ合い、カチカチと音をたてていたのです。
膝が折れ、その場に私の体は座り込むように崩れ落ちました。
真ん中の支柱の隙間から下を覗き込みました。
水色の服が、チラチラと見えました。
カンカンカンカン、と、昇ってくる靴音はどんどん近づいてきます。
涙と鼻水で私の顔はぐしゃぐしゃでした。
どうしてこうなったのか、どうすればいいのか?何も考えられません。叫ぶ事すら忘れて、私は嗚咽を漏らしながら、その場にうずくまりました。
が、その時です。
ガチャン、と金属音が鳴ったかと思うと、目の前の鉄の扉が開いたのです。
そしてそこから、デパートの制服を着た20代くらいの男性が現れたのです。
「こんなとこで何してるの?泣いてるの……?何、どしたん!?誰かにいじめられてんの!?」
大きな声で話しかけてくる若い男性。
すると下のほうから、
カンカンカンカン、と、
今度は凄い勢いで下っていく靴音が聞こえたのです。
「何あいつ?なんなん?あいつか?いじめてんの?」
そう言うと若い男性は私の返事も待たずに、急いで階段を駆け下り始めました。
「おいっ!ちょっ待て!」
二人の足音が遠ざかっていくのが
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- 文章上手いですね。 おもしろかったです。匿名