
高校2年のときの話です。幽霊とかじゃなくて、いちばん怖かったのは“人”でした。
クラスに、妙に聞き上手な子がいました。アヤって呼ばれてて、目立たないのに、誰とでも自然に仲良くなる。休み時間に隣に来て、「最近どう?」って、ほんとそれだけ。
最初は雑談でした。部活の愚痴、親のこと、好きな人のこと。こっちが言いよどむと、アヤは絶対に急かさない。ただ頷いて、笑って、「そっか」って言う。安心させるのが上手かった。
変だと思ったのは、クラスの空気が少しずつ壊れ始めてからです。
仲良かったグループが急にギクシャクして、陰で悪口が回り出して、誰かが泣いて帰る日が増えた。原因はいつも些細で、「誰が言ったの?」って追っても出どころが曖昧。
ある日、僕のところにも来ました。
放課後、アヤがスマホを見せてきたんです。
画面には、僕が前にアヤへ送ったメッセージがそのまま並んでました。部活の顧問の愚痴とか、友達のちょっとした悪口とか。
「これ、みんなに見せたくないよね?」
笑って言うんです。脅してるのに、声は穏やかで、まるで“確認”みたいに。
「やめてよ」って言うと、アヤは首をかしげて、
「じゃあさ、明日、○○に『あの子、私のこと嫌いらしいよ』って言ってくれない? 文面は送るから。その通りに」
って。
その瞬間、全部つながりました。
クラスで起きてた揉め事は、アヤが“相談”で集めた言葉を、少しだけ形を変えて流してたんです。本人同士をぶつけて、疑心暗鬼にさせて、孤立した子からまた秘密を吸い上げる。
僕は断りました。そしたら翌日から、僕の席だけ、目に見えて空気が冷たくなった。
挨拶が返ってこない。LINEが既読にならない。班決めで余る。先生に当てられると後ろで笑い声がする。
どれも決定打じゃない。でも、毎日少しずつ削られる。
“たまたま”の積み重ねみたいに見えるから、誰にも説明できない。
耐えきれなくて担任に相談したとき、担任が最初に言ったのがこれでした。
「アヤさん? あの子、学年にいないよ。転校したの去年だよね?」
名簿にも出席簿にも名前はなくて、クラス写真にも写ってない。
でも、僕のスマホの中には、アヤとのトーク履歴が残ってる。送ったはずのないスクショも、録音も、全部。
僕が震えながら「じゃあ、僕を脅したのは誰ですか」って言ったら、担任は困った顔で、
「脅されたっていうなら、まずその証拠を——」
と言いかけて止まりました。
その瞬間、僕のスマホに通知が来たんです。
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