
秋の夜、私は中年の男とその息子を乗せた自転車で、実家の近くにある湖へ向かっていた。久々の帰省に心躍る思いでいたが、やがてその道は細くなり、周囲は暗く静まりかえった。
自転車を押して進むと、湖が見えてきた。水面は静かで、まるで鏡のように周囲を映し出していた。息子が「お父さん、ここでキャンプしようよ」と提案した。
「いいな、でも明るいうちにテントを立てよう。」私はそう答えた。
しかし、何かが引っかかる。湖の周りには雪もなく、いつもより静かだ。水の音すら聞こえない。
テントを設営し、焚き火を囲んでいると、息子が突然言った。
「お父さん、さっきから誰かが見ている気がする。」
私は気にしなかったが、不安が胸をよぎった。辺りを見回すが、何も見えない。焚き火の温もりが心を和ませているのに、どこか冷たい空気を感じていた。
夜が深まるにつれ、異常な静けさが私たちを包み込む。息子が「トイレに行く」と言い出したので、私は懐中電灯を渡し、彼を見送った。しばらくして、彼が帰ってくる気配がない。
心配になり、私は立ち上がって彼を探しに行った。湖の近くに行くと、目の前に何かが浮かんでいるのが見えた。暗闇の中で、何かの手のようなものが水面から伸びていた。思わず声を上げると、手が引っ込んでいった。
「息子!」と叫びながら、湖の縁に駆け寄った。水際には彼の自転車が倒れている。心臓が凍りつく思いだった。息子が戻らないはずがない。
急いで湖に近づくと、冷たい水が足元まで迫ってきた。湖の底が見えない。何かの気配を感じ、恐る恐る水に手を伸ばした。
その瞬間、指先に何かが触れた。冷たい感触。息子の手だと直感した私は、全力で引き上げようとした。しかし、何かが私の足を掴み、引きずり込まれていく。
水面が遠ざかり、暗闇が迫る。最後の力を振り絞り、手を振りほどこうとするが、もう遅い。
『――本日、行方不明になっていた父と息子が発見された。自転車が湖の近くで見つかったことから、彼らが水面に引き寄せられたと考えられている。警察は遺体発見の際、不可解な状況を調査中である。』
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