
ガラケーの小さな液晶画面が、薄暗い四畳半の部屋を青白く照らし出していた。
まだLINEなどなく、人と繋がるには赤外線で互いの端末を突き合わせるか、呪文のような英数字の羅列を手書きのメモで交換し合うしかなかった時代の話だ。
地方から大学進学を機に上京した俺は、都内でも家賃の安い、古い鉄筋マンションで一人暮らしを始めていた。東京の夜は、地元と違ってどこか冷え冷えとしており、排気ガスの匂いが染みついた空気は、いつも俺の喉を小さく乾かせた。
大学へ通う駅までの道すがら、大きな都立公園があった。週末になると、公道からもよく見える開けた場所に、あの真っ赤な十字を掲げた大きな「献血バス」が、まるで巨大な芋虫のように居座っていた。
それまで、先端恐怖症でビビリな俺にとって、献血など無縁の存在だった。だが、ある日を境に、そのバスは日常の「異物」へと変わった。
いつもバスの傍らに立ち、道行く人に声をかけている若い女性看護師。
モデルでも通用するような小顔、病的に白い肌に映えるぱっちりとした二重瞼。後ろできゅっと束ねられたブラウンの長い髪。そして、純白のナース服の下から伸びる、蜘蛛のように細く長い脚。彼女はあまりにも美しく、そしてどこか、生気を感じさせない硝子細工のような不気味さがあった。
・・
引き寄せられるように、俺は日曜日、初めてバスの重い鉄の扉を叩いた。
車内は、鼻を突くような強い消毒液の匂いと、微かに生温かい、鉄錆のような匂いが混ざり合っていた。
「こんにちは。こちらへどうぞ」
目の前に現れた彼女は、間近で見ると驚くほど肉感的だった。純白のナース服の胸元ははち切れんばかりに膨らみ、そこだけが異常に生々しかった。
「では、針を刺しますね」
次の瞬間、腕に走ったのは「チクッ」などという生易しいものではなかった。太い注射針が肉を裂き、血管を抉るような、悍ましい激痛。俺の体が恐怖でガタガタと震えるのを見て、彼女は唇を三日月のように歪め、肉食獣のような笑みを浮かべた。
透明なチューブを、俺のどす黒い静脈血がドクドクと、狂ったような勢いで流れ落ちていく。パックが膨らんでいく様子に吐き気がした。だが、彼女の冷たい視線に縛り付けられ、俺は動くこともできなかった。
それから何度も血を吸われに通ううち、俺は完全に狂っていた。ある日、自分の携帯番号とアドレスを書いた紙切れを渡すと、彼女はそれをナース服の胸ポケットへ滑り込ませ、声もなくニヤリと笑った。
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