
さっき、1月の「冬休みのコックリさん」を書き込んだ、大学1年の俺だ。
1年が終わろうとする逃げ場のない2月になると、さらに狡猾な最悪の精神攻撃「怪談」が待っていた
1月の怪談のあと、硬貨を触るたびに指先が氷のように冷たくなる後遺症に怯えながらも、2月上旬を迎えた。
この時期になると、雪が降りそうなほど空はどんよりと灰色に濁り、放課後の渡り廊下は、立っているだけで全身の感覚がなくなるほどの猛烈な極寒に包まれていた。
今回は、凍えそうな夕方の窓ガラスの向こうから、俺の一番大切な存在を使って精神を完全にへし折りにきた10回目の怪談をここに詳しく吐き出させてほしい。
2月上旬のある日の放課後だった。
その日は陸上部のメニューが早めに終わり、部室棟で着替えを済ませた俺は、一人で新校舎の2階へと続く長い渡り廊下を歩いていた。
外はすっかり日が暮れかけていて、灰色の闇が校舎を包み込んでいる。
渡り廊下の大きな窓ガラスには、冷え切った外気でうっすらと霜が降りていた。
早く温かい家に帰ろうと足早に通り過ぎようとした、その時だった。
「――、おーい」
不意に、外の暗闇の向こうから、聞き覚えのある懐かしい声が聞こえた。
足を止め、恐る恐る横の大きな窓ガラスに目を向けた。心臓が嫌な音を立てて脈打ち始めた。
窓ガラスに映る外の暗闇の中、誰もいないはずの校舎裏の敷地に、ぽつんと【俺の母親】が立っていたんだ。
コートを着て、いつもの優しい笑顔で、じっとこちらを見上げている。
だけど、ここは学校の敷地内だ。
親がこんな時間に無断で入ってこられるわけがない。何より、母親がそこにいるはずがないんだ。
頭の中の警報がうるさく鳴り響く中、窓の向こうの母親は、現実の母親と全く同じ声で、ガラス越しに語りかけてきた。
「そんなところで何してるの? 寒いでしょ。早くこっちにきなさい」
その声は、4月からずっと孤独に怪異と戦い続け、精神的に限界を迎えていた俺の心に、驚くほど自然に染み込んできた。
「ああ、お母さんだ。助けにきてくれたんだ」と、一瞬だけ思考が麻痺しかけた。
だが、泥のように沈む意識の底で、俺は見てしまった。
窓ガラスに映る母親の姿。よく見ると、顔だけは優しい笑顔の母親なのに、首から下の身体が、衣服の隙間から【骨が不自然にねじ曲がった真っ黒な黒焦げの影】のようになって蠢いているのを。
そいつは笑顔のまま、さらに優しい声でお前のこれまでの恐怖に寄り添うような言葉を重ねてくる。
後日談:
- 俺は涙と血を流しながら、夜の道をがむしゃらに走って家に逃げ帰った。 こたつに入って自分の部屋の電気を全部つけても、体の震えは一晩中止まらなかった。 翌日、恐る恐るあの渡り廊下の窓を確かめに行ってみたが、そこには昨日化け物が激しく叩きつけたはずの手形などは一切なく、ただ凍てついた霜が白く張り付いているだけだった。 【噂すら誰も聞いたことがない、俺の一番大切な記憶を模して精神を狂わせようとした未知の呪い】だった。 だけど、あれは絶対にただの幻聴なんかじゃない。 なぜなら、あの怪談があってから大学1年になって一人暮らしを始めた今でも、俺は【実家の母親から電話がかかってきたり、声を聞いたりするたびに、あの時窓ガラスの向こうで首をねじ曲げて笑っていた化け物の顔が脳裏にフラッシュバックして、受話器を持つ手がガタガタと震え出してしまう】んだ。 特に入学直後の今の時期や、あの凍えるような2月になると、母親からの優しいLINEの文面を見るだけで、あの渡り廊下の冷気と「早く開けなさい」という声が耳の奥でリフレインして、強烈な吐き気に襲われる。 あの学校の土地は、俺の肉体だけでなく、俺の「家族の絆」すらも永久に呪いで汚し尽くしたんだ。 これが、2月。 凍える渡り廊下で、俺が体験した10回目の怪談だ。 これでようやく、本当に高1の地獄の1年間が終わる。 3月、最後の終業式を迎えるその日、1年間の全ての呪いを集約したような、最後の最悪の結末「怪談」が待っていた。 次は、いよいよ最後の3月だ。
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