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長編

僕の地獄と彼女の地獄

匿名 2日前
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疲れもあっていつしかうとうとしてしまったらしい。 その時にキッチンの方からガッシャン!と大きな音が聞こえたそうだ。 何事かと明かりを点けてキッチンを確認してみると、シンクの中に血だらけの包丁があったという。 彼女は怖くなり、混乱しながらも僕を起こそうと寝室に戻ると、目を半開きにして血でぐっしょりと溺れた僕が、ベッドの中で意識を失っていたということだった。 その後は刑事たちから聞かされた話と大して違いはなかったが、決定的な証拠の少なさや杜撰な捜査の矛盾、 警察から聞かされた証言の食い違いなどから彼女は申し訳なさそうに、私は犯人は浮気相手の男とはどうしても思えない…と呟いた。 男は小心者で、殺意をもって人を殺そうとするほど大胆なことが出来る人間じゃないと…。 「それに…」 「それに?」 言葉を詰まらせた彼女に話を促す。 「これは今まで誰にも言ってなかったんだ…。もちろん警察の人にも。 あの日、あなたを乗せた救急車に乗り込もうとしたとき、人だかりの中にあなたの姿があったの…。 一瞬、他人の空似かと思ったんだけど、近所でそんな人見たことないし、聞いたこともなかった。 それに、髪型や服装までまるっきり同じで…血まみれのあなたを見てずっと笑っていたの…。 笑い方までそっくりで。」 僕は彼女の話を聞いて、背筋が凍り付いた。 彼女は続ける。 「夜中に何人もの人がいて、みんな深刻そうな顔をしていたのに、あなただけが笑ってた…。 だけど本当に怖かったのは、誰にもその笑い声が聞こえていないみたいに周りの人も救急隊の人もあなたに無関心だった…。 笑っていたあなたはまるで、私にしか見えていないみたいだった…。今のあなたは、あなたよね…?」 僕は今にも逃げ出したいほどのかつてない恐怖を感じていたが、彼女に言っておかなければいけないことがあったので、なんとか踏みとどまることが出来た。 「たぶん僕だよ。ちゃんと戻ってきた。」 僕は続ける。 「6年間、地獄のような夢を見てたよ。ずっと殺され続けてきた… そしてこれからは…君の番なんだ。」 凍り付く彼女を見て、僕は嗤った。

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