
それは寒い冬の昼下がりの出来事だった。
僕は有給を取って、一人「白銀山」という名の山に登ることにした。周囲は静まり返り、雪が一面に広がっていた。途中、氷のように冷たい風が吹き抜ける場所で休憩していると、下からまるで舞い上がる雪のように近づいてくる女性の姿が見えた。
驚いたのは、彼女が真っ白なフード付きのコートを着ていたことだった。彼女は僕を無視し、まるで風に乗るかのように、急な斜面を登って行く。
僕は人に追い越されるのが好きではない。彼女は見た目で二十代後半くらいだろうと思ったので、すぐに追いつけるだろうと考え、再び荷物を整えて歩き始めた。
しかし、なかなか追いつかない。僕は普段のペースで歩いていたが、ふと見上げると、彼女がまるで雪をかき分けながら登っているように見えた。人間ではないかのような速さだ!
急いで追いかけようとしたが、山頂に着くと、そこには誰もいなかった。「北の尾根」へ行く道や、「東の峰」へ行く道はあったが、そこに行くには相当な時間がかかる。
徐々に夕暮れが迫っており、彼女のような若い女性がそんな距離を一人で行けるとは思えなかった。もちろん、僕自身も無理だ。どこに行ったのだろう?考えれば考えるほど、頭の中は混乱していった。
何よりもあの軽やかに滑るような歩き方は何だったのか。そして何より、若い女性があんなに雪深い白銀山を一人で登るなんて、まるで幻覚のように思えてならなかった。
その後、僕はどうやって下山したのか全く思い出せない。ただ、あの女性と会っていないことだけは確信している。彼女の冷たい視線が、今でも脳裏に焼き付いている。彼女がどこに消えたのか、今も謎のままだ。彼女は本当に存在したのか?それとも、雪山の精霊だったのだろうか?
その問いが、僕の心をずっと苦しめ続けている。
何もかもが白く覆われた山の中で、僕はただ一人、彼女の影を追い続けている。彼女が、もう一度姿を現すのを待ちながら。
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