
短編
ベランダ
あ 2日前
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昔の話です。
僕の家にはベランダがあります。
2階には父の書斎と兄の部屋があるだけで、僕の寝室は1階にありましたので、生活のほとんどは1階だけで完結していました。
子供の時の僕にとって、2階というのは、滅多に立ち入ることのない、非日常的で魅力的な場所でした。
両親は「危険だから」という理由でベランダに出ることだけは固く禁じていました。
僕もそれを厳守していましたが、ある時ふと興味の方が勝り、ベランダに出てみることにしました。
僕の家のベランダは庭に面しています。
周りには背の低い住宅が多く、遠くまで見渡すことが出来て、気分が良かったです。
ベランダに出ることは、僕の秘密の楽しみになりました。
ある日、いつも通りベランダに出ると、あることに気が付きました。
それまで庭側の面だけにあると思っていたベランダが、実はL字に伸びていて、家の側面まで続く構造になっていました。
「いまさらこんなことに気がつくなんて!」と驚きました。
よく見知っている自分の家のベランダに、まだ知らない構造を見つけた僕は大喜びでL字の角を曲がりました。
曲がってすぐ、僕はもう一度驚きました。
両側がコンクリートの壁に覆われた、行き止まりの廊下のような構造になっていたのです。
「なんだよこれ…」
がっかりして引き返しました。
後ろから物音がしたので振り返ります。
廊下の行き止まりには女性が立っていました。
口角が歪に上がって、虚な目で僕を見つめています。
痙攣しているかのように、首から上がカタカタと震えています。
「こっちにおいで」と語りかけてきました。
行くわけがない。
何か壮絶に恐ろしいものを見ていると実感した僕はすぐにベランダから飛び降りました。
飛び降りてすぐベランダの方を見ると、さっきの女性が恐ろしい形相でこっちに向かって、何かを叫び続けていました。しかし、声は一切聞こえてきませんでした。
次に気がついたのは病院のベッドの上でした。
倒れている僕を発見した隣人が通報してくれたようです。
幸い、両足に2,3ヶ所の骨折を負った程度で済みました。
慌てて駆けつけた両親に事情を話すと、青ざめた顔をしていました。
両親はすぐに引っ越しを決意しました。
でも無駄でした。
新しい家のベランダでも、無いはずのL字になったベランダの続きが見えます。
たびたび「こっちにおいで」と囁く声が聞こえます。
ベランダには気をつけて。
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