
「私、昔”トントン”っていう友達がいたんです。」
不気味な体験だったと、彼女は語り始めた。
彼女が小学生のときの話だ。家族四人で古びた一軒家に住んでいて、彼女には一人の部屋が与えられていた。
その家に引っ越してきたのは、彼女が七歳の頃。初めは何も異常はなかったが、いつからかその部屋で、姿の見えない友達の声が聞こえ始めた。
夜中もあれば昼間もあり、その声は不規則に現れた。『トントン トントン』という子供のような奇妙な響きが、彼女の耳に届くようになったのだ。
初めてその声を聞いたとき、彼女は恐怖を覚え、すぐに母親を呼び寄せたが、「何も聞こえないよ」と言われてしまった。
『トントン トントン』
今もその声は明確に聞こえているのに、母親はただ不思議がるばかりだった。
どうやら大人には聞こえないものらしい。押入れの中も調べてもらったが、特に変わったところは見つからず、逆に「そんなこと言うのはやめなさい」と叱られてしまった。
それ以降も、昼夜問わずその声が続いた。だが、不思議と彼女は怖さを感じず、むしろその存在に親しみを持つようになったという。声の主はまるで若い男の子のように思えた。
『トントン』以外に、物が勝手に動いたり、電気が瞬いたりすることはなかったが、彼女は室内に誰かいるような気配を感じていた。
そして、彼女はその声を「トントン」と呼び、逆に積極的に話しかけることにした。
「トントン、どこにいるの?いくつなの?君は誰なの?」
何を聞いても『トントン』としか返ってこなかったが、彼女にとっては素晴らしい友達だった。
一人ぼっちの時や、夜に眠る時。心細さが襲ってくると、いつもトントンが傍にいてくれた。誰にも言えない秘密の友達だった。
しかし、両親は彼女の独り言を快く思わず、何度も「やめなさい」と注意していた。彼女は「パパとママもトントンの声を聞けたらいいのに」と願った。
絵を描く時間には、想像上のトントンと自分が並んでいる絵をよく描いていた。
そんな日常が続いていたが、彼女が中学校に上がる頃、家族は別の町へ引っ越すことになった。
引越し当日、空っぽの部屋で「さようなら、トントン」と言うと、それに応えるかのように『トントン トントン』と声が返ってきた。
彼女はトントンを連れて行けたらよかったのにと思った。家が遠ざかっていくのを、名残惜しく見つめながら。
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