
私の祖母は認知症を患っていた。彼女は晩年、いつも同じことを繰り返していた。「天井から人が降りてくる」と。両親や親戚はそれを幻覚だと決めつけ、真剣に受け止めることはなかったが、私はその怯えた表情が忘れられなかった。祖母が亡くなり、彼女の遺品を整理するために古びたアパートに足を運んだ。部屋は静まり返り、薄暗い光が差し込んでいた。整理をしながら、ふと目を天井に向けた。その瞬間、何かに引き寄せられるような感覚がした。視線を感じ、思わず天井を見上げる。すると、そこには祖母が、まるで詰まった荷物のように、ゆっくりと降りてきていた。ギチギチに圧縮された彼女の姿は、私が知っている祖母とはまったく違っていた。目は虚ろで、口は開いたまま、何かを訴えているようだった。恐怖が全身を駆け抜け、逃げ出したい衝動に駆られたが、動けなかった。祖母の声が聞こえた。「助けて…」と。だが、その言葉はもう私の耳には届かなかった。彼女が降りてくる度に、私の心は凍りついていった。結局、私はその場から立ち去ることができず、祖母が完全に降りてくるまで、ただ、恐怖に震えていた。彼女のことを思い出すたび、心の中で何かが壊れていくのを感じる。あの瞬間、私は何を見てしまったのだろう。もう二度と、あの部屋には戻れない。
それから数日後、夢の中で祖母に呼ばれた。彼女は何も言わず、ただ微笑みながら手を差し伸べてきた。私はその手を取ることにした。夢の中で彼女と一緒にいると、心が安らいでいくのを感じた。しかし、目が覚めたとき、彼女の笑顔が消え、代わりに天井から降りてくる影が見えた。私はもう逃げられない。
その日から、私は天井を見上げるたびに、あの影を思い出し、恐怖に包まれる日々を送ることになった。何が本当で、何が幻だったのか。もう分からない。私の中に、祖母の声だけが響いている。
そして、次第に私の目にも、何かが見えるようになってきた。天井から降りてくる影が、私を呼ぶように。
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