
これは、僕が小学生だった冬のことです。
友達と公園で遊んでいると、遊具の下に小さな鈴が落ちているのを見つけました。冷たくて小さなその鈴は、まるで誰かの声を吸い込んでいるかのようでした。
「これ、いい音しそう!」
僕はその鈴を手に取り、家に持ち帰ることにしました。
その晩、寝ていると、何かが僕の耳元で鳴る音がしました。最初は夢かと思ったのですが、すぐにその音が現実だと気付きました。鈴の音が、まるで誰かの呼び声のように感じられました。
目を開けていないのに、視界の端に何かがいる気配がしました。それは、薄い影のような老婦人。彼女はじっと僕を見つめていました。目が合ったわけではないのに、視線が痛いほどに感じました。
その老婦人は、鈴を指差し、口を動かしましたが、その声は聞こえません。代わりに、鈴が次第に強く鳴り響くのを感じました。彼女は、何かを訴えているようでした。
「ごめんなさい!返すから!」
その言葉が口から出ると、妙に冷たい震えが走りました。何を返すのか、全く分からなかったけれど、必死に謝り続けました。すると、彼女の顔が少しずつ近づいてくるように感じ、体が硬直しました。
「お願い、許して!」
その時、鈴の音が急に止まり、静寂が訪れました。恐怖に押しつぶされそうになりながら、僕は心の中で「返す」と繰り返していました。いつの間にか、朝の光が差し込む頃になっていました。
その瞬間、僕は気づきました。返さなければならないのは、この鈴だったのだと。
急いで公園に戻り、鈴を元の場所に置きました。心の中で、「ごめんなさい」と繰り返しながら、手を合わせました。
その瞬間、不思議と体が軽くなった気がしました。あの老婦人は、許してくれたのかもしれません。
それ以来、僕は物を安易に拾わないことにしています。たとえそれが、誰かの大切なものだとしても。だって、そこには、どんな思いが込められているか分からないから。
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