
さっき、6月の「狂った模範解答」を書き込んだ、大学1年の俺だ。
あの学校にある数え切れない怪談は、生徒が誰もいないはずの【夏休み】だろうが、俺を絶対に休ませてくれなかった。
初めての期末テストが終わり、7月の後半から学校は夏休みに入った。だが、陸上部で中距離をやっていた俺には休みなんてなかった。うだるような暑さの中、毎日のようにグラウンドで厳しい夏練習が続いていたんだ。
今回は、あの真夏のグラウンドで、俺の「走る身体」そのものが奪われかけた、4回目の怪談をここに吐き出させてほしい。
7月下旬の、午前中から猛烈な酷暑が照りつける日のことだった。
その日はグラウンドの土から、視界がぐにゃぐにゃに歪むほどの強烈な陽炎(かげろう)がゆらゆらと立ち上っていた。
本メニューのきついインターバル走がすべて終わり、他の部員たちが全員、日陰にある臨時の給水所に引き上げていった時のことだ。
俺は自分の走りのタイムにどうしても納得がいかなくて、顧問の先生に無理を言って、「泣きのもう1本」として、一人だけで居残ってトラックを走らせてもらうことにした。
周囲には誰もいない。聞こえるのは、頭の上から降り注ぐ狂ったようなセミの鳴き声と、自分の荒い息遣いだけ。
静まり返ったトラックのスタートラインに立ち、俺は勢いよく地面を蹴り出した。
異変が起きたのは、第3コーナーを曲がり、直線に入った瞬間だった。
猛烈な熱気で視界が白く霞む100メートルほど先。激しく揺らめく陽炎の向こう側に、【誰か】がポツンと立っているのが見えた。
遠目からでも分かった。それは、俺と全く同じ陸上部のユニフォームを着て、俺と全く同じ体格をした男だった。
そいつは俺が近づいてくるのをじっと待つように佇んでいたが、俺との距離が数十メートルに縮まった瞬間、俺の方へゆっくりと首を向けた。
顔は陽炎のせいでモザイクがかかったように歪んで見えない。
だが次の瞬間、そいつは【俺と完全に同じフォームで、猛烈なスピードでこちらに向かってトラックを逆走し始めた】んだ。
驚いて足を止めようとしたが、そいつの足元を見て、背筋に冷水が走った。
そいつには、太陽の光があるはずなのに「影」が一切なかった。
それだけじゃない。そいつが踏みしめたグラウンドの砂が、【まるで超高温のアイロンでも押し付けられたかのように、一瞬で『真っ黒に焦げて』ジュッと煙を上げている】のが見えた。
「あいつ、やばい」
本能が最大級の警報を鳴らした。
後日談:
- 俺はグラウンドに倒れ込んだまま、しばらく激しく過呼吸を起こしていた。 熱中症で倒れたと思った顧問の先生や部員たちが、慌てて俺に冷水をぶっかけ、スポーツドリンクを飲ませてくれた。 落ち着いてから、俺はトラックの直線コースを指差した。 だが、そこには黒く焦げた砂の跡なんて1ミリも残っていなかった。ただ、夏の強い陽射しがグラウンドを白く照らしているだけだった。 翌日以降も、部活の奴らに「夏休みのグラウンドで、影のないランナーの噂とか聞いたことないか」と探りを入れてみた。 だが、誰もそんな怪談は知らなかった。 「お前、夏の練習がきつすぎて幻覚でも見たんだろ」と笑われるだけだった。 4月、5月、6月と同じ。あの学校に眠る数え切れない怪談の中でも、【誰も噂すら聞いたことがない、俺だけが標的にされた未知の呪い】だった。 だけど、あれは絶対に幻覚なんかじゃない。 なぜなら、あの事件があってから大学1年になった今でも、俺の【右足の裏だけが、どれだけ冷やしても、真冬であっても、まるで真夏のコンクリートを踏んでいるように、いつも不自然に熱を持ったまま】なんだ。 走る時には、今でもその右足の裏がチリチリと疼く。 あの時、あの黒い走者は、俺の影のほんの数ミリ、右足の影の端っこだけを、確実に踏みつけていったんだと思う。 これが、夏休み中の7月であり、俺が体験した4回目の怪談だ。 あの学校の土地は、このうだるような夏休みが終わるまで、さらに俺を追い詰め続けた。 次は、8月だ。
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