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長編

建て替え

匿名 2025年4月13日
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不動産会社での怖い話 「建て替え」 僕が入社して1ヶ月くらいがたったとある春の日、非通知から一通の電話が鳴ったんです。 「チョメスハイツA棟103号室の佐藤(仮)です」 電話口は歳を感じさせるような貫禄のある声でした。 当然、いつも通りのただの問い合わせだと思いマニュアルに従って対応しました。 「お世話になります。今回はどのようなご用件でしょうか?」 佐藤(仮)さんはくぐもった物言いで口を開き 「最近、部屋が暑くて眠れません。」とゆっくりと話しました。 変な問い合わせだなと若干思いながら、それに対し返答をしようとすふと、ふいに電話が切れました。 今は5月なのに暑い?など考えながらメモを見返し、その物件の契約書を探します。 するとどうやら私の店の管理ではないようでした。特段重要な問い合わせでもなさそうなので、まあいいかと思い、この件については誰に話すわけでもなく季節は春から夏へ移り変わりました。 入社当初より業務をこなせるようになった私は、1人お店で留守番していました。 時刻は15:00、タバコでも吸おうと立ち上がった途端、電話が鳴りました。 モニターに映る番号は「非通知」 ふと入社当初の春の日のこと思い出し、電話に出てみました。 「チョメスハイツA棟103号室の佐藤(仮)です」 あの人でした。 「お世話になります。今回はどのようなご用件でしょうか?」 前と同じ返事をすると、案の定佐藤(仮)さんは「最近、部屋が暑くて眠れないんです。助けてください」と以前と違い、今回は助けを求めてきました。 「エアコンはつけていらっしゃいますか?もしエアコンの不調などですと」と話していると、またふいに電話が切れてしまいました。 2回目なこともあり、いたずらを疑った私は店長へ確認してみることにしました。 「お疲れ様です。今チョメスハイツA棟103の佐藤さん(仮)という方から部屋が暑いという連絡があったのですが、聞き取り最中に電話が切れてしまいました。前も同じような…」 「あだちさん、その電話出たのね」 と僕の話を遮るように店長は言いました。 「その部屋、というよりそのアパート、火事で建て替えてるの」 「えっ、、」 全身の鳥肌がフル勃起したあの感覚は今でも忘れられません。僕は一体誰と話していたのか。 「102号のタバコの火が原因でね。佐藤さん以外の入居者は異変に気づいてすぐアパートから逃げ出せたんだけど、佐藤さんは歳的にも毎日くるヘルパーさんの助けがないと外に出れない方で、そのまま部屋に取り残されてしまったの。噂には聞いていたけど、本当に電話がかかってくるなんて」という店長 おいおいマジかよ。なんて思いながらも、非通知に折り返しはできないので、そのまま月日は流れて行きました。 季節は冬にさしかかり、年に一度の長期空室物件の大掃除の日がやってまいりました。 基本2人で掃除を行い、その日私と同行になったのは社歴38年の大ベテランのおじいちゃん社員の林さんでした。定年は迎えており、趣味の延長で仕事をしているそうだ。 林さんはその日別のアパートで入居者対応の予定があったので、別々で掃除物件に向かうことに。 社用車に乗り、ナビを設定するためにGoogleマップを開き目的地の住所を入れると、そこに表示された画像は更地でした。 いやなんでやねんと思いながら、Googleマップだとたまに番地のずれで写真が違う時がたまにあるので、特に違和感を感じずに向かうことにしました。 国道23号線に乗り、しばらく車を走らせると事務所から30分程度で目的地へ到着しました。 まだ林さんはきていないようなので、今回掃除予定の102、103の暖房をつけておこうと思いました。 102号室は長期空室なのですが、林さんが普段から手入れしていることもあり、とても綺麗でした。暖房を入れるとしっかり暖かい風が出てきて、掃除中手が悴むこともなさそうです。 しばらくエアコンの直風で暖まった後、103号室のエアコンもつけにいこうと立ち上がると、天井に黄色いシミを発見しました。 ヤニ汚れのような。 こういうのも掃除するのかなーと少し億劫に思いながら、玄関の方へ向かったそのとき、入ってきた時には感じなかった猛烈なタバコのにおいが鼻を刺激しました。 その際私は「エアコンが古いから」としか思わなかったのです。 これは後々知ることになりますが、私の勤める不動産会社では、設備であるエアコンは一定期間が過ぎたら交換、また退去するたびにエアコン洗浄をしているとのことでした。なのであのとき感じたタバコの匂いに、エアコンは関係なかったのです。 鼻をつまみながら102号室を出て、隣の103号室の扉の前にきて、鍵を開けます。 そのとき、ふと違和感を感じました。 まるで、まだ人が住んでいるような、明らかに空室とは思えない生温かさ。実際、触れたドアノブはなぜか冷たくありませんでした。 一瞬怖くなりましたが、こんなことで仕事は務まりません。 意を決してドアを開け、勢いよく中に入りました。 わたしは初めて腰を抜かしました。 最初に感じた違和感の正体、102号室でのタバコの臭い、Googleマップに写っていた更地の画像、そして、佐藤さんからの電話。 わたしの今いるこの部屋は、燃えているかのように暑かったのです。 真冬の空室が熱いわけはなく、逃げるかのように立ち上がろうとしたとき、私はあの電話の内容を思い出します。 「最近、部屋が暑くて眠れないんです。助けてください」 もしかして、佐藤さんは今この瞬間も苦しんでいるのではないだろうか。 そう思うと、私は恐怖の感情を跨ぐようにリビングへ向かいました。 ものすごく熱く、その重圧に腰を抜かしそうになるも、負けじとバルコニーへ続く窓を勢いよく開け放ちました。 外気温2℃の冷たい風が、一気に部屋を制圧し季節外れにかいた私の汗を冷やしていくのを感じました。 気づけば部屋は寒くなり、感じていた重圧からも解放されました。そのとき玄関の扉を開ける音が聞こえ、林さんが中に入ってきました。 「先に来てたんだ、うわ何その汗」 何で説明したらいいかわからずに言葉を探していると「体調悪いんでしょ、ちょっと休憩してていいよ」と気を使わせてしまいました。 この汗だけが、さっき起こったことを証拠付けるものだけど、私は「大丈夫です」といい寒い103号室と、タバコのにおいがしない102号室の掃除をしてから、事務所まで戻りました。 この出来事があってから半年が経ちましたが、佐藤さんからの電話は未だ来ず、あのアパートにもあれ以来行っておりません。 ただ、その後店長へありのまま伝え確認したのですが、あのアパートはやはりチョメスハイツの建て替え後の物件だったこと、それが約20年前の出来事だったこと、今すぐお祓いに行った方がいいことを忠告されました。 もちろんその次の日有給を取りお祓いに行きましたが、住職さんがいうには、どうやら私からこの世のものじゃない何かを感じたそうです。それは、長年苦しみ彷徨ってきた男性の感謝の気持ち。

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