
それは僕が中学3年生の秋の午後、友達と一緒に帰る道すがらの出来事だった。周囲は緑が色づき、夕日の光が団地の壁に反射していた。どんな話をしていたのかは思い出せないが、心地よい風が吹いていたことだけは鮮明に覚えている。
その時、ふと目を引く存在があった。団地の入り口近くに、長い黒髪をなびかせた女が立っていた。彼女は白いドレスを身に纏い、手には青い風呂敷を持っていた。初めはただの住人かと思ったが、彼女の目はどこか不気味で、周囲の空気が一瞬凍りつくようだった。
「誰かいるの?」と友人が言った。彼女は何も答えず、ただこちらを見つめていた。その視線が、まるで僕の心の奥まで覗き込まれているような感覚を覚えた。
その後、友人がその女に近づこうとしたが、僕は思わず彼を止めた。「やめとけよ、あの人変だって」と言ったが、友人は興味津々で、あの女に近づいていった。僕の心臓はドキドキし、何か悪い予感がした。
その時、女は急に笑い出した。だがその笑いは、決して幸せなものではなかった。目が赤く染まり、口元が裂けるように大きく開いて、ただ無音で笑い続けていた。友人はその異様な光景に驚き、後ずさりした。
「何だあれ……」と呟く友人の横で、僕は恐怖に駆られた。何かに引き寄せられるように、女の方を見つめてしまう。彼女は青い風呂敷を振り回し、まるで何かを呼び寄せるかのように立っていた。
「行こう、早く!」と叫んだが、友人は動けなかった。その瞬間、彼女の口からは「来て、遊ぼう」と声が漏れた。まるで呪文のように、僕の心をつかむ。
僕は逃げた。友人の手を引っ張り、団地を後にした。振り返ることはできなかった。彼女の姿が目に焼き付いていた。
翌日、学校で友人に話しかけても、彼は無視した。何度か声をかけたが、彼の目は虚ろだった。話しかけても反応がなく、まるで別人のようだった。
数日後、友人は突然姿を消した。その後、彼の家族からは何の連絡もなく、ただ彼の行方不明が噂されるだけだった。
しばらくして、僕は友人が見たものを知ることになる。仲間の一人が友人があの女に近づいて、何か恐ろしいものを見たと言っていた。彼はそのことを誰にも話せずにいたのだ。
あの女が何だったのか、何を求めていたのか、僕にはわからない。ただ、彼女の存在は僕の記憶の中に深く刻まれ、今も時折夢に現れる。あの日の光景は、忘れられない影となって、僕の心をついて離れないのだ。
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