
中編
薄い女
匿名 2024年6月11日
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俺は小学生時代に初めて不思議な体験をして以来、ちょくちょくおかしなものを見るようになっていた。
特に中学生時代はかなり頻繁に色々見ていて、そういったものを見ることに慣れてしまっていた。
なので何か見えても「ああ、またか」程度で、それほど怖いとは思わなくなっていた。
そんなわけでほとんどなにを見たか覚えていない。
それでもいくつかは今でも忘れられないものがある。
これは、そのうちの一つのお話です。
当時中学二年生だった俺は、思春期真っただ中。
いきなり何の話かと思われるだろうが、性の話である(笑)
当時俺の家の裏には少し年上のお姉さんが済んでいた。その家の家族構成は、お姉さんとお兄さんそして両親の4人。
お姉さんは当時高校生ぐらいで、中二の俺が見てドキッとするぐらいには可愛い人だった。
小さい頃は一緒に遊んでいたけど、お互い年頃になってからはほとんど会話もなくなっていた。
そのお姉さんの部屋が、当時の俺の部屋からよく見えたのである(笑)
夏場などはお姉さんも部屋のカーテンを開けていて、無防備な姿がよく見えて、それはもう思春期ど真ん中にあった俺を容赦なく揺さぶってくれたものだ(笑)
そんなある夜。
いつものように勉強机横の窓からお姉さんの部屋を見てみると、その日は部屋の明かりは点いていたもののカーテンが閉まっていた。「ちぇっ」と、俺は勉強机の上に視線を戻したのだけど、「ん?」と思わずお姉さんの部屋の窓を二度見してしまった。
カーテンと窓の薄い隙間に、「なにか」がいた。
黒い影のようなものが、閉まっているカーテンと窓の隙間で左右にゆっくり揺れている。
最初はお姉さんの影かと思ったのだけど、違う。カーテンの向こう側じゃなく、カーテンのこっち側にいる。しかもサイズがお姉さんよりもずっと大きい。女の人が横向きに立っているような形の影が、カーテンと窓の隙間で揺れていた。
「!」
俺はゾゾっと鳥肌が立った。変なものは見慣れていた俺だけど、これは少し気味が悪かったのだ。
慌てて自分の部屋のカーテンを閉め、俺は今見たものを忘れようと努めた。
それから数日がたった休日の午後。
部屋でゴロゴロしていた俺は何気なくまたお姉さんの部屋の窓を見てみた。
部屋のカーテンは閉められていた。
するとそこにまた「それ」がいた。
しかも今度は姿かたちがはっきりと見えた。
女だった。老年に差し掛かろうかという皴くちゃの顔、ぼさぼさの長い白髪、大きな目と鼻。灰色のワンピースのような服を着た大きな老婆がそこに横を向いて立っていた。
カーテンと窓ガラスの薄い隙間。そこに横向きに立った老婆が、にやにやしたまま前後に揺れていた。
俺はとっさに目をそらしてカーテンを閉めた。
あまりに気味が悪かった。
どうやったってあんな5センチ程度の隙間に人が横向きに立てるはずがない。
老婆自体がどす黒く、まるで悪魔や魔女のような見た目で、今でも忘れられない。
あまりの恐ろしさに俺はそれ以来お姉さんの部屋を見ることはなくなった。
性に対する興味心よりも恐怖心のほうが勝っていた。
で、その老婆が何者なのかは分からないまま数年が経ち、それが原因だとは思いたくはないが、お姉さん一家は離散してしまった。
まずお姉さんとお兄さんが田舎のおばあちゃんの家に引き取られ、その後両親は離婚。お父さんがしばらく一人で暮らしていたが、やがて病死した。
今ではその家も、俺の住んでいた家もすっかり壊されて、新しい住宅街に生まれ変わっている。
30年も昔のことだが、あの老婆のおぞましい姿が今でも忘れられない。
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