短編
◇霊園の前の人影◇

終電で地元の駅に着いてから私は二十分ほど歩いて帰る。
その日もいつものように自宅へと歩いていた。
人通りはほとんどない。
途中、長いトンネルを通る。
二十メートルほど先を歩く人がいた。
珍しいと思った。
勿論、薄暗い夜のトンネルなのではっきりとはわからない。
でも、後ろ姿から間違いなく女性の人影だった。
カツッカツッカツッ・・・
私と前方の女性の足音がトンネルの中でひびく。
長いトンネルを抜けると、そこはまっすぐな道がつづき、左手には霊園(墓地)が見えてくる。
ここで私は気がついた。
前方の人物がいつの間にか男性になっていたのだ。
おかしい。
肩幅から背丈からあきらかに先ほどの女性とは違うのだ。
まっすぐな道で入れ変わるなんてできるわけがなかった。
何故?
驚きで立ち止まると、ちょうど前方の人物も立ち止まった。
前方の人物は立ち止まると横を向き、そのまま動かなくなった。
ん?
なんだろう? と思ったら、その人物が立ち止まったのは霊園の入り口の前だった。
こんな時間に霊園に用事?
そんなわけがなかった。
これはヤバい。
このまま歩いていけばあの人物とすれ違いになるけれど、それは危険だと思った。
仕方ない。
私は駅まで引き返しタクシーで自宅に向かうことにした。
お金はかかるけど仕方ないと思った。
私が引き返しはじめると同時に真後ろからいきなり声が聞こえた。
「行かないで‼」
私は驚いて叫びながら走って駅まで逃げだした。
了
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