
長編
祖父のメッセージと初雪
けいすけ 2017年11月9日
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このお話は私の祖父が亡くなって49日を迎えた日に体験した不思議な出来事のお話です。
私の祖父は10月13日に亡くなりました。
中学三年生になる年の春先に祖父は体の異変を感じ、病院嫌いで父と喧嘩をしても結局は病院に行った。
祖父は肝硬変と末期の食道癌でした。
もう少し早く意地を張らずに私達家族の言葉を聞き入れてくれれば…もしかしたら、少しの間だけでも元気でいてくれたのかもしれません。
祖父は家と病院をいったり来たりでしたが、祖父は開き直ったようにお酒と煙草を止めることはしませんでした。
当時は何故じいちゃんはそんな事をするのかな?
長生きしてほしいのに…元気でいて欲しいのに。
…と、内心は思っていました。
最初は怒っていた祖母と両親でしたが、何かを悟ったのか何も言わなくなりました。
私も、不思議と祖父の病気を知り祖父をみているうちに嫌な予感はしていました。
大好きで可愛いがってくれた祖父…。
母のギャンブルが原因の借金と学校でのいじめが原因で抑えが利かなくなり私の感情が爆発していじめっ子にカッターを片手に掴みかかる…そんな人間として最低な馬鹿な事をしでかしてしまい、中学一年生から中学三年生の6月迄児童相談所から児童自立支援施設にお世話になっていた過去があります。
色々な不満や怒りや悔しい感情に支配されて大切な事は何も見えていませんでした。
しかし…。
「栞先輩。オレ、一度死んでるんです。真冬の朝方に俺がいた養護施設のごみ箱に紙袋に放り込まれて入れられていたんですよ。でも、冬は平気ですけどね。」
ある一つ下の後輩の男の子の無邪気な笑顔から語られた胸が苦しくなるような過去でした。
私の一つ下の弟と同い年の13才の男の子が何故、こんな辛いことを笑って話せるの?
あれ気にくわないこれ気に食わないだの我が儘放題でも両親と祖父母は叱りつつも合わせるところは合わせている…。
何で片方の男の子だけこんなきつい目に?
…私の目には何故か涙が溢れてきた。
「そっか…。辛かったね。君が生きていて良かった。」
そう言って私は頭を撫でていた。
後輩君は照れ臭そうに笑ってくれた。
私の心の中の弱い感情とモヤモヤは無くなっていた。
確かに両親や親戚や祖父母は大人同士で揉めていたし父が母に手をあげている所を見てしまったり、虐めの相談も「気にするな」の一言で流されていると勘違いして両親や祖父母を恨んだりした。
でも…私達子供が少しでも笑ってくれるように沢山気を遣ってくれていたのも心配をしてくれていたのも祖父母や両親だった事、そんな大人の人達の中に生まれてこれたことが一番幸せで、日常の家族との生活の一つ一つが当たり前の幸せでは無いことを学びました。
「そっか…。偉い、やっと分かってくれたね。栞は本当は心根の優しい子だと分かっていたよ。ご両親やお祖父ちゃんお祖母さんが大好きだったから悲しかったんだよね?」
先生は優しい笑顔で笑ってくれました。
「でも、先生…私悲しいです。だって、自分の弟くらいの可愛い子に酷いことをする大人がいるんですよ。何で、そんな事が出来るんだろう。」
「確かにね…。腐った大人もいるよね。でもね、栞はあの子の話を聞いて悲しくなったんだよね?その時の気持ちは忘れては駄目だよ。子供は純粋で周りの大人の感情を読めるんだよ。大丈夫、栞は人の痛みが分かる優しい子だから。」
…先生の言葉は今も忘れません。
「ごめんな…栞は悪くないよ。皆大人のせいだ。でも、どんな理由があっても自分や人を傷付けてはいけないよ?痛みは忘れては駄目だよ。自分を責めて落ち込む為の痛みでは無くて、栞を強くするために必要な痛みだったんだから。良く頑張ったね。反省した子を責める人間は居ないよ。可愛い孫にこんなことをさせてしまって。ごめんな。」
…家に帰って来た祖父は優しく笑い言ってくれました。
そんな優しい祖父だから…元気でいて欲しかった。
それから祖父と4ヶ月間過ごせた。
9月に入った辺りから祖父は熱を出して具合悪そうにしていた。
その時期に私は学校から帰り、玄関を開けると百合の臭いを強くしたような臭いを感じた。
不思議な事にその時には家に百合の花など飾ってはいない。
兄が運転する車に祖父と同乗していた叔父がある匂いを感じていた。
「母さん、親父の事気にかけてやってくれ。」
叔父も何かを感じたのかそう祖母に告げていた。
それから祖父は喧嘩してまで止めなかった煙草と酒を止めた。
そんな10月のある朝がた、私は夢を見ました。
家で葬儀をしている夢でした。
遺影を見ると、祖父の遺影でした。
「どんなに悲しくても、どうすることも出来ない。神様や私達でさえも変えることは許されない。産まれもった寿命…こればかりはどうすることも出来ないのよ。辛いだろうけど…分かるわね?」
祖母とそっくりな喪服姿の女性が出て来て泣きじゃくる私にそう諭されました。
そこで夢は終わりましたが、嫌な予感は消えませんでした。
不思議と苦しい身体でも優しく微笑む祖父の笑顔を見ると複雑でした。
恥ずかしい話、その日は不安と悲しみと恐怖で授業に身が入らず泣いてしまい校長室にいさせてもらいました。
先生方には頭が上がりません。
「栞はじいちゃん思いだな。じいちゃん大事にしなさいね。」
先生方もどこか暗い表情ながらも笑ってくれていました。
その後の秋休みに母と弟と高校見学に行くための下見に行きました。
「帰りに美味しいものでも食べなさい。どんな学校だろうね。」
お小遣いを沢山くれて、祖父は送り出してくれました。
「じいちゃん有り難う。行ってきます。」
私達は家を出発しました。
家に帰ると叔父が来ていました。
丁度お土産のあげ饅頭を持って来てくれていました。
祖父は久々にお饅頭を食べていました。
叔父と母と祖父と弟達とのあの日の団欒の笑顔は今でも忘れません。
「学校に行くにしろ仕事をするにしろじいちゃんは口は出さない。でもね、自分がやりたいと思った事は最後までやり遂げなさい。嫌な事も楽しいことも乗り越えてもこの仕事が好きだ、そう思えた仕事は頑張りなさい。栞は誰かを笑顔に出来る素敵な子だよ。それだけは忘れないでおくれ。」
…その時の祖父の真剣な瞳と優しい笑顔も忘れません。
今思えばそれが最後の祖父からのメッセージでした。
10月晴れの体育の日、10月13日の朝8時50分に祖父は自宅で息を引き取りました。
看護師の母が救急車を呼んだ傍らで必死の処置と必死で駆け付けてくれた叔父の手当てのかいもなく。
私が御守りを握らせ祖父の手の上から手を握り神様に御願いをしても駄目。
祖父の冷たくなる手と感触は未だに忘れません。
私の頭の中で何かが音を立てて壊れる音がしました。
泣いてばかりでしたが、祖父の葬儀はしっかり参列しました。
火葬場について、最期の別れの後にボタンを父が押し棺は釜の中に入りました。
私は耐えきれず、その場で泣いてしまいました。
祖父が荼毘に伏されている最中に私と従妹は不思議なものを見ました。
火葬場の上空から綺麗な光が登って行くのを見ました。
「優しいお祖父ちゃんだったからね。綺麗な光の姿になったんだね。49日と言ってね、亡くなった人が天国に行く日なんだけど…その日までは親しい人達の所にいるんだよ。あたしのお祖父ちゃんもいる天国に行くために、皆の姿を見るんだよ。泣くなとは言わないけど、沢山泣いた後はちゃんと笑ってあげてね?」
…従妹の優しい言葉に少しだけ落ち着きました。
それでも、祖父の遺骨を見た時に私はまた泣いてしまいました。
祖父の遺骨を箸で少し触れただけでも崩れてしまいました。
その瞬間、私の胸に重く苦しいものを感じました。
痛みとも重さともどちらともつかない感覚です。
それからの毎日は祖父が亡くなった悲しさが忘れられず毎日泣いていましたが、姿を表してくれる祖父と初恋のプロ野球選手のお陰で立ち直れました。
そんなある日の事です。
祖父に何の気なしにおやつを供えながら、私は祖父の遺骨と遺影に語りかけました。
「ねえ、じいちゃん。天国って本当にあるのかな?もし、本当にあってじいちゃんが天国に逝けたら私に教えてほしいな。そうだな、桜の花びらのような綺麗な雪が見たいな。本当に天国があったら、その印に雪をふらせて教えてね、じいちゃん。」
…祖父の遺影は微笑んでいました。
それから、49日の法事が終わり会食後の団欒タイムに私と従姉は散歩がてらお菓子を買いにコンビニへ向かいました。
祖父の思い出話をしていました。
その時に、従姉に祖父にした御願いの話をしました。
「そっか。天国は本当にあるのかな?ちゃんとじいちゃん行けたと思うよ。和尚さんもそう仰ったみたいだしね。」
…と、従姉が言った瞬間でした。
突然、空から雪が降ったのです。
「桜の花びら見たいな雪が…。」
「ま…マジで?」
二人仲良くポカーンとしながら綺麗な雪を見つめていました。
その時は11月31日…時期的に偶々かもしれません。
しかし…雪が降る直前に火葬場で見た光が天に登るのを見ました。
「天国は本当にあるみたいだね。栞ちゃんもじいちゃんを悲しませちゃ駄目だよ。」
従姉は優しく笑ってくれました。
私も涙を溢しながらうなずきました。
それから9年後の現在の私は駅前のコンビニで働いています。
毎日色々な人達が来て、嫌な思いをしたり腹が立ったりします。
パワハラ上司の被害に遭ったり、変なお客に絡まれたりストレスは色々でしたが…。
夢の中に水子のもう1人の姉と祖父と曾祖父母が守ってくれて、パワハラ上司や変なお客を退治してくれました。
毎年、人事異動の時期に私の水子の姉が人事部の方々とパワハラ上司に睨みを聞かせていたり、人事部に頭を下げていたりしてくれています。
「栞ちゃんが嫁入りまで近寄らせないから安心してね。腐った性根の奴に大切な妹を傷付かせやしないわよ。可愛い妹にした仕打ちは許さない。償ってもらうわよ。」
「栞を傷つけるやつはじいちゃん達が懲らしめるからな。無理せず頑張りなさい。」
祖父と姉の優しい激励に励まされながら頑張っています。
休憩中に外を出ると、雪の匂いがしました。
その匂いを嗅いだときに中学三年生の頃の不思議な体験を思い出しました。
生きていれば辛いことも腹のたつこともあります。
常識の欠片のわからない馬鹿な大人の姿をみて嫌になったり悲しくなります。
たまに泥を被ります。
でも…その度に思い出すんです。
祖父が亡くなった時に響いた音は大切な人を亡くす悲しみと…祖父の遺骨が崩れた時に感じた痛みと苦しさは命の重さ何だと。
「身体は脆いが、魂は強くなる。綺麗な魂のままでいなさい。人の痛みも常識も分からない馬鹿どものために暗い顔はするな。絶対負けるな!疲れたら逃げろ、休め‼電話何か電源抜いて知らんぷりだ‼美味いものをたらふく食べなさい。美味しいお供え、何時も有り難う。栞はこれから良いことがあるから。風邪引いてるようだから大好物を食べて沢山寝なさい。」
…今朝がた久々に祖父に夢の中で会えました。
あの時感じた痛みは祖父が教えてくれた命の重さでした。
「栞が沢山学んだ素敵な大切な事は忘れないで、孫や子供達に教えてあげなさい。」
…と。
明日は給料日なので祖父のお仏壇に饅頭を供えます。
何をあげるか楽しみな反面、供えると悲しくなります。
本当は、元気でいて欲しかった。
美味しいお菓子を一緒に沢山食べたかった。
仕事の話を沢山してアドバイスを教えて欲しかった。
そんなこんな考えながら毎月のお給料日に果物とちょっと良いお菓子を供えながら涙を流す私を祖父は優しく微笑んで笑ってみてくれます。
遺影の表情も変わるのだと不思議です。
気のせい…?
イヤイヤ、口角が上がってますけど…。
同じような饅頭があがると、祖父は苦笑いの笑顔です。
可愛い小ぶりの美味しいクッキーだと満面の笑みですが。
ま…お供えと私の気持ちが天国にいる大好きな人達に届くと嬉しいです。
後日談:
- 長々とすいません。 読んでくださり有り難うございます。 他にも祖父との不思議なエピソードは絶えませんので別な機会にお話させていただきます。
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