
長編
引っ張る声
匿名 3日前
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事もあるという。
祖母はそう言った経験から、病院=最も死に近い場所という印象が強いと言った。
だから病院に何度も出入りしている自分は、時々、生きて病院を出ているのか死んで魂だけが外に出ているのか、分からなくなる時があったと言う。
「もういつ死んでもおかしくない歳だからね、入院したりすると今度こそもう目覚められないんじゃないのかなって思っちゃうのよ」
祖母はそう言って弱々しく笑った。
「それにね、今まで随分と病院に入院して来たから時々、眠る前に引っ張られそうになるの」
祖母曰く、長く病院にお世話になっていると時々、不思議な声を聞くと言うのだ。
その声というは決まって祖母が1人の時、しかし昼夜問わずに不意に聞こえてくるものらしい。
その声を初めて聞いたのはもう大分昔の事らしいが、声は「おーい、おーい」と遠くから聞こえて来て、次第にゆっくりと近づいて来ると言う。
「最初は廊下の奥から聞こえてきて、次に入院したら廊下の向かいから聞こえた事もあったわね」
数年前の手術の折には、祖母の使っていた個室の扉の外から「おーい、おーい」と呼ぶ声を聞いたらしい。
「あの声はきっと私を呼んでいるのね、早くこっちに来いって」
そう語る祖母の表情が、私には語り口に反して酷く怯えているような気がした。
次第に近づいてくる声を聞いていると、それは男の声であったり、女の声であったり、子供の声であったりとまちまちらしい。
しかし決まって祖母が1人の時にしか聞こえず、側に家族がいたり、相部屋の患者がいたりする時には声はかからないのだそうだ。
だから祖母はその声が聞こえた時は、絶対に反応しない事に決めている。
病院で誰かに後ろから声をかけられても、振り返らず、その声の主が「生きている人」なのかどうかを見極めてから、反応するように心がけているらしい。
一度、その声に思わず振り返ってしまった事があり、その時は背筋がゾッとするような冷たさが祖母のすぐ脇を通り過ぎていったような感覚になったと言う。
まるで冷たい腕が祖母の身体を、通り過ぎざまに引っ張ろうとしたように。
「だから◯◯(私)も病院で声をかけられても、簡単に反応したらダメよ。引っ張られるかもしれないから」
そう話を締めくくって、祖母はまた弱々しく笑った。
翌日、私と家族が病院へ祖母を迎えに行くと、祖母は嬉しそうに杖をついて私の腕に掴まってきた。
足腰の弱い祖
後日談:
- 七品です。 現在、祖母はまだまだ元気に活動しています。時々体調を崩す事もありますが、この話を聞いてから私も率先して祖母の体調を気遣うようになり、今のところ病院のお世話になるような事はありません。 声に関しても祖母曰く、入院しているとその時は気持ちが沈むから何となく、そう聞こえてしまうのかもしれないと本人は笑っていました。
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- 実家で看取った私の母は「次兄が迎えに来ると言ってるの。次兄と一緒に行くから上着を探さなきゃ」と言って、渾身の力を振り絞って起きあがろうとしました。死を恐れる様子は全く見受けませんでした。病院だと変な死神も来るから、警戒せざるを得ないですね。防空頭巾
- お元気で良かった!通りすがり
- 黄金虫様、コメントありがとうございます。これからも細々と投稿して行きたいと思います(^.^)七品
- 七品さんの話とても好きですwもっといろいろ投稿してください!黄金虫
- ボルゲーノ様、たま様、コメントありがとうございます。 幸い祖母は今の所元気です(^-^)七品
- お祖母様がいつまでもおげんきでありますように。 お大事になさってください。たま
- これ実話だと思います。たぶん笑ボルゲーノ