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長編

潮鳴様

匿名 2時間前
怖い 20
怖くない 28
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それは、建前だった。 彼はもう知っている。 この地には、“還る場所”がある。 神が棲む、海ではない海が。 あの日以来、Aは海へ行っていない。 海を見ると、心臓が締め付けられるのだという。 医師の診断では「急性ストレス反応」、つまり心因性の不調。 けれど、A自身は違うと感じていた。 「違うんだよ、怖いとかじゃない。……ただ、あの波の音が、俺の中にあるんだ。ずっと前から、そこにあったみたいに。」 Bは街を出た。 何も告げず、数週間後に引っ越していた。 LINEには既読がつかず、電話も繋がらなかった。 佐原はBの居場所を調べ、転居先を訪ねた。 出てきたのはBの母親だった。 彼女はひどく疲れた顔でこう言った。 「……あの子、夜中にね、“耳が濡れる”って言うの。寝てても急に飛び起きて、頭を振るのよ。まるで、耳の奥に……波が入りこんでくるみたいだって。」 ――海の記憶。 ――体の奥に染みついた“神の音”。 佐原は、それを“共鳴”と記録した。 信仰の記憶。あるいは、存在の侵食。 その夜、佐原も夢を見た。 祠の前。森の中。 地面に横たわる白い布のようなもの。 近づくと、それは人の形をしている。いや、“人だったもの”。 呼吸も、言葉もない。 ただ、そこに横たわっている。 波の音が、空から降ってくる。 潮の満ち引きではない。 肉の中に入りこんでくるような、海の音。 ふいに、白いそれが顔をこちらに向けた。 目がない。口がない。 だが、確かに“見て”いる。 「……おぼえているね」 「きたこと、あるね」 「なぜ わすれたの」 佐原は立ち尽くしていた。 言葉も出ない。 その時、彼の足元に水が満ちていた。 暗く、重く、冷たい。 それは水ではない。血かもしれない。記憶かもしれない。 そして、声がした。 「おまえも しずむ」 「おまえのなかに わたしがいる」 「だから しずんで」 ――目が覚めた時、シーツが濡れていた。 汗ではなかった。塩の匂いがした。 その日の夜、佐原は地元の資料館で古い記録に目を通していた。 何度も出てくる名―― 潮成(しおなり)大人(うし) それはこの地にかつて祀られていた、“海神とされるもの”の異称。 人の姿にして人にあらず。 潮の道を歩み、海の代わりを持ち、時折「人を呼ぶ」。 「潮成大人の祠、今は森に埋もれ。かつては白布をもって海辺に現る。 女のかたちをとるが、見てはなら

後日談:

  • 以前別の怪談サイトにも投稿した話です。

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