
これは私が25歳の時に体験した出来事です。
その夜、私は同僚と飲んでからの帰り道、すっかり冷え込んだ冬の深夜に高層マンションの廊下を歩いていました。月明かりの下、静まり返った廊下に自分の足音だけが響いています。周囲は薄暗く、暗い影が伸びていました。
そんな中、耳元にかすかな音が聞こえました。最初は風の音かと思いましたが、次第にそれはメロディーに変わっていきました。その音は、まるで古びたオルゴールが奏でるような、誰かの懐かしい歌のようでした。
私はその音に惹かれるように、足を進めていきました。心の奥に温かい感情が広がり、まるで子供の頃に聞いた母の優しい声を思い出させるものでした。
廊下の奥へ進むにつれて、音はどんどん大きくなり、やがて曲がり角の先から聞こえてきているのがわかりました。
その曲は、私の心を優しく包み込み、思わず早足になって曲がり角へ向かいました。そこには小さな明かりがともり、オルゴールの音が一層鮮明に響いています。
しかし、曲がり角を曲がった瞬間、音は途切れました。目の前には誰もいませんでした。ただ、冷たい廊下の壁に寄りかかる一つの影があるだけです。
それは、長い髪をした女性の姿でした。服は薄汚れ、顔は見えなくて不気味です。私は直感的に、関わりたくないと思いましたが、体はその影に引き寄せられるように進んでしまいました。
近づくにつれて、女性が顔を上げました。目が合った瞬間、震え上がるような恐怖が襲いました。そこにいたのは、間違いなく私の母でした。彼女は目を見開き、薄笑いを浮かべながら私を見ていました。
その瞬間、記憶が飛び、次に気づいた時には、自分の部屋の前に立っていました。ドアを開けると、家の中から母の変わらぬ声が聞こえました。いつも通りの彼女が、私を迎えてくれました。
しかし、あの廊下の女性も、確かに母だったのです。あれから数年が経ちましたが、今でもその出来事を話すことはできません。どちらの母も、今も元気で変わらぬ日常を送っています。
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