
長編
家を護る
えい 2018年2月15日
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親戚の家を借りた話の続きです。
今回は 4畳半に住んでいた 青大将の話です。
( 途中で 自殺した霊の乱入があります。 )
前に話した通り 4畳半に陣取っていた あの蛇です。彼(蛇)は あの家が空き家になってから 住んでいたんだと思います。
小さな子供の時から……或いは 卵の時から…
彼はいつも 押し入れの上段に 蜷局を巻いて鎮座していました。たまに忘れて 押し入れの襖を開けては 彼に威嚇される事も少なくなかったです。
押し入れを開けて 彼が居ない時は ちょっと心配したり 後から来た 私が言うのもなんですが……同居蛇的な感じでした。
ですが……ある時を境に 彼は 変わりました。
今までは シューシューと威嚇するだけだったのに いきなり 飛び掛かって来たり 時には指に噛みついてきたりしました。( 毒は無いです。 )
私が何か彼が嫌がる事をしたのか?と考えましたが 思い当たる事は何も無く 暫くはソッとしておこうと 4畳半に入っても押し入れを開ける事はしませんでした。
そうして月日が流れ 冬が近くなった頃 夜寝ていると シュルシュルシュルとナイロン製の紐のような物が擦れる音が耳元でしたので 目をあけると 真っ白な顔が目の前にありました。
髪の毛も真っ白。肌も真っ白。
なのに………目だけが 真っ赤。そして 細長く赤い舌。 それで それが何の化身なのか分かりました。
目の前にある顔の口から 細長い舌が私の鼻先でチロチロと踊る。
( 何が望み?何をして欲しいの? ) 私は心で話し掛けました。
でも 目の前の顔は 表情を変える事無く 私の顔を覗き込んだまま 微動だにしない。
この人?は……もしかしたら………そう思った時 それの顔が一瞬 歪んだ気がしました。
そして ほんの一瞬 目を細めて そして一瞬で煙の様に消えました。
金縛りに なってなかった。
それを意味するものは……助けて欲しい時。
自分達の力ではどうにも成らない 人の……人間の力を要するという意味。
それから 色々と彼を探しましたが 全くと言っていいほど 見付からなくて……
その度に 寝ていると 重い物をお腹に感じる様になり それが徐々に 耐えきれない程の重みに変わって行き 余りの重さに意識が飛ぶ事 数週間……。
検討違いな場所を探しているのかもと 4畳半の押し入れを探す事にして 襖を開けましたが やはり彼はいませんでした。
普通の蛇は 冬眠するのですが 家の中に住んでいた彼は 冬眠はしていなかったみたいです。
前の年の冬に押し入れにいましたし……
天井を叩いて 板をずらし 懐中電灯で暗闇を照らしましたが 彼の姿は無く 気持ち悪い不気味な虫がいたくらいでした。( 多分 ゲジゲジ )
彼を探しているうちに 年が明けそうになってる事に気付き 今年中に見付けなければ マズイかもという考えが頭を過り……
集中して 探していると いきなりの金縛りに遭いました。
押し入れの下段 四つん這いになったまま 金縛りに遭い 何でこんな時に……と思っていると 首に冷やっとした 物が触れました。
もしかして 彼が?!と思いましたが 金縛りが解けずにいたので 違う事はすぐ分かりました。
後ろに気配がありました。
4畳半の真ん中に 立っている。振り返らなくても分かる 確かな気配。
長い髪。ボサボサな髪。真っ赤なワンピースを来て 真っ赤な口紅 真っ赤なマニキュア。
それが後ろに立っていた。
そして ゆっくりと歩いて 此方に向かってくる。
歩く度に 何かが グチョッ ベチャッ ペタン 音を立てて 落ちる。
最初は分からなかった でも解った。
彼女は 数日前 近くの魚市場から引き上げられた車の中で腐敗しきった遺体で見付かった人だった。
何かではなく自分の腐敗したモノを落としながら歩いていた。
金縛りは解けない。
彼を探すのに意識を集中していたから 気付くのが遅かった。
腐敗した臭いが鼻を突く。彼女が近くなるに連れ臭いもキツさを増していく。
( 何の用?用があるなら こんな事をしなくても話は聞きます。金縛りを解いて下さい。 )
彼女は黙ったまま すぐ そこに居る。水が滴る音と 身体から崩れ落ちるモノの音。それだけしか聞こえない。
彼女は黙ってる。
( 何も話さないのね?用が無いなら 飛ばすけど 恨まないでね。 ) そう言ったあと 無理矢理 金縛りを解いて 押し入れから這い出ると 彼女と向き合った。
長い間 水に浸かっていたのが分かる。
きっと 美人だという事も分かった。
自殺なのだろう。車ごと落ちてた所を見ると 車から漏れ出る ガソリンやオイル等の液体が流れ出せば 早く発見されると思ったのだろう。
でも 彼女の計算は 巧く行かなかった。
何日も発見されず 水に浸かったまま 暗い海の底から 何を見ていたのだろう?
私 「そのままの姿では 家に帰れないんじゃないの?このまま彷徨うの?どうしたいのかは 貴女の口から聞くまで 私から手助けする事は無いよ。私は今 忙しいから その間 良く考えなさい。」
それだけ言って また押し入れの下段に入って行く。懐中電灯で照らしながら バールで 板を外して 床下を除く 目の前に何かあった。
暗かったので 懐中電灯で照らすと 漬け物石の様な丸く大きな石があるのを見付けました。
彼はそこに居ました。
外に出た時に 猫か何かに追われ 石の下に身を隠したものの 入った時の隙間を 追ってきた何かに埋められ( 石の回りを掘ろうとして たまたま塞がった感じでした。 ) 出るに出れなくなり 気温が下がり 動けなくなったのだろうと……。
しかし この石は私の力では 動きそうも無く 板を 大きめに 外して 持ち上げ様としましたが 下手に持ち上げて 彼に当たっては いけないと 男手を要するからと 電話をかけ 助けを呼びました。
待つ事 10分 。 普段から力仕事をしている 友人のAとJが来ました。
二人を上げて4畳半に行くと Aが 「うおっ?! 」と言いました。
あっ‼そうだった…Aは見えるんだったと思い
私 「あぁソレは気にしないで 居るだけで何をする訳じゃ無いから……それよりこっち見て。」
と 押し入れを指さしました。
Aが中を覗き込み バールで退かそうとしたので 私は 慌てて Aを止めました。
私 「ぎゃ~やめて~下に蛇が居るから ‼ 」
A 「何?お前食うの?」
J 「うわっマジッすか?」
私 「誰が食うか !? 助けてくれって電話で言ったじゃん !! 」
A 「あぁ~だったな。そこのインパクトのある姉さんを見て 飛んでたわ(笑)」
J 「んじゃ Aそっち抱えて 横にズラそう。」
A 「よっしゃっせ~のっよっ‼」
J 「うわっ‼デカッ⁉」
A 「何年生きてんだ コイツ?」
私 「あぁ~良かったぁ こっちに取って渡して。」
と 言うと二人が 「はぁ?」て顔をした。
私 「その蛇 冬眠した事無いみたいだから 餌も蓄えて無いだろうし…箱に入れるから 早く頂戴。」
J 「A半分持って。」
A 「はっ半分なっ半分。」
二人が手を伸ばした時 微かに蛇が動いた。
A 「うわっ‼ 動いた ‼ 」
J 「おいA 手を離すなよ?」
A 「分かってるよ。しかし重てぇな…。」
二人が愚痴るのを無視して 蛇を箱( 発泡スチロール )に入れ 暖かい居間に移動する。
押し入れの床板は 彼等に元に戻して貰いました。
4畳半から 彼等が出て来たので お茶を入れました。Aは4畳半の部屋をしきりに気にしていましたが 私が気にするなというと 苦笑いをしてお茶を啜った。
お礼を言って みんなで食べてとお茶菓子を持たせ返した後 玄関で見送る私の後ろに 彼女が立った。
私 「こんなはずじゃなかった?」
そう私から切り出すと彼女がピクッと反応した。
私 「生きてる人間の事は複雑過ぎて分からない事ばかり……でもね…亡くなった人の事なら 良く分かるの。隠していても……私には通用しない。貴女は 自ら命を絶った。何故?楽になったの?」
彼女 「ら……く?」
私 「そう…楽になったでしょ?もう 苦しくも辛くもない。何も考えなくていい。でも……貴女は早まった事をした。生きる辛さより 死ぬ楽さを選んだ。どうして 私だけがって…?それは貴女自身が悲観的に物事を考えていたからじゃ無いの?人は 生きている限り 辛く苦しい場面に必ずぶつかるもの。それを乗り越える力があるから みんな頑張って生きて行くの。誰かに励まされ 励まし合って……人が持つ力って何にも負けないのよ?さぁ何があったのか?どうしたいのか?話して…そして お家に帰りなさい。そして 今のご両親の姿を見てきなさい。それで 貴女が少しでも 生きたかったと思えば 救われるから…。」
彼女 「あっ……。」
私 「何を驚くの?それが貴女の姿でしょ?」
彼女 「私 付き合ってる人がいました。同じ職場で働いていた人です。でも…あの女が…!! 私が昔太ってたって事ばらしたうえに 高校の時の写真を拡大コピーして 会社中に……それから 彼は私を避ける様になって…友達も影で笑ってた…。だから ……。」
私 「会社を辞めようとは思わなかったの?人は群れを作ると 群れの中だけは回りの人と同じ事をする。だけど一人になったら……きっと違ったはずよ。一人になった時 自分の愚かさに気付くのよ。仲が良ければ 良いだけ それに気付いた時 自分を責めるのよ?何故?一緒になって笑ったのか?って……貴女だけが苦しかったんじゃ無いの。貴女だけが辛かったんじゃないのよ。そして今 貴女が亡くなった 今 貴女の友達がどんな思いでいるか…?貴女に解る?」
彼女は黙ったまま俯いている…。
私 「貴女がそうしようと思った時と同じ気持ちになってると思う。自分を責めて 責めて 責めて……でも 貴女の友達は きっと 生きる。生きて辛さを背負ったまま 生涯を終える。 生きてさえいれば 何だって出来るの。でも…貴女にはもう出来ない。だから 今 会社の人達の所を回ってみるといい。その想いが貴女には解るから。話さなくても解るから。さぁ 貴女は どうしたいの?」
彼女 「私はっ‼ 何も考えて無かった。水の中で私の身体が…ボロボロになって行くのを見てて…怖か……った…。誰にも見付けて貰えなくて…悲しか…っ……た。うちに帰りたい。お母さんに謝りたいっ‼ うっうぅ…。」
私 「貴女はきっと やり直せる時が来る。その時はもう 馬鹿な気は起こさないでね?道を作るからそこを歩いて行きなさい。貴女の家に帰りなさい。さぁ行って…。」
彼女は泣きながら でもしっかりした足取りで家に帰って行きました。
発泡スチロールの箱に 入れていた 彼の事が気になり 居間へ上がると あの真っ白い化身が 箱に手を置いて 微笑んでいた。
あぁ……大丈夫なんだなって思った。
ソレが顔を上げると 目が一瞬 金色に輝いて また赤い目になり 私を見ていた。
彼はこの家の主。
私は同居している人間。
その関係を 使いが許してくれた。
あの真っ白い人に化けた化身は 白蛇だった。
そして……青大将という種違いの番いだった。
白蛇は神様の元へ帰り 罰を受けるだろう…
それでも 彼の身を心配して 遠い距離を人に化けやって来たのだろう…
その後 元気になった彼は 前と同じ 4畳半の押し入れの上段に 鎮座していた…。
暖かい風が吹く頃 彼は 姿を消した……
遠く離れた 神社の赤い鳥居の脇の榊の枝が茂るその袂に………
絡み合う様に 白蛇と一匹の青大将が死んでいました…。
あの家が放置されていた間 彼があの家を護って来たんだと……その時 分かりました。
神社の宮司に訳を話 二匹は 手厚く供養され また 蜷局を巻いた状態で 二匹の絵を描き 絵馬やお守りのデザインとして 今も その神社で売られている…。
途中で 割り込んで来た彼女の話も同時進行だったので 長くなりすみませんでした。
お付き合い下さった方 有り難う御座いました。
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