
私には四つ下の妹がいる。母子家庭で、母は朝から晩まで仕事だったから、家の中では基本私たち姉妹だけで過ごす時間が長かった。
物心ついた頃から、妹には奇妙な周期があった。
私はそれをひそかに「ほんとじゃない期間」と呼んでいる。
厄介なのは、それが完全に二人きりの時にしか発動しないことだ。
外でも、疲れて帰ってきた母の前でも、妹はいたって明るくて快活な普通の子だった。私に対しても、他の人の目がひとたび入れば「お姉ちゃーん」とにこにこ笑いかけてくる。
だけど家の中で大人の目が消えて、文字通り二人きりになった瞬間、空気が凍る。
リビングの死角、誰もいない廊下。
二人になった途端、妹はほがらかな笑みをスッと消して、底冷えするような目で私を見る。
そしてこう言う。
「お姉ちゃん、ほんとじゃない」
初めは子供の悪ふざけだと思ってた。「何言ってんの、お姉ちゃんはちゃんとお姉ちゃんだよ」そう笑い返すと、妹は露骨に嫌な顔をして私を避けた。
「ほんとじゃない」期間中は、私の使ったコップをに顔をしかめて、服の裾が触れただけでビクッと身を引く。過剰なほど、私を嫌がった。
しかし、それが過ぎると妹は何事もなかったように「お姉ちゃん」と私に笑いかけてくるのだった。だから普段は私も、「またあの時期が来たな」と気味の悪さを覚えつつ、やり過ごしていた。
数週間、あるいは一ヶ月に一度、そういう「ほんとじゃない期間」が挟まるだけだ。実害もないし、大丈夫。そう思うことでなんとか自分を納得させていた。
中学のとき、思春期だった私はその日とても虫の居どころが悪かったのを覚えている。友達との小競り合いが尾を引いていたのか、とにかくイライラしていて、そんな時に妹がいつもの冷ややかな態度を取るものだから、なにかプッツンと私の中でキレてしまったのだった。
「ほんとじゃない期間」の最中、私は妹の肩を掴んだ。
「私は私、本物だよ!適当なこと言わないで!!」
その日、初めて妹に対して大声を出した。
妹はしばらく床をじっと見つめて黙りこくっていたが、突然、口を開いたかと思うと一気に捲し立て始めた。
「違う、お前はちがう。私は分かっている、お前は違うんだ。とってるだけのくせに、なれないくせに、なりたいだけのくせに。ほんとじゃないくせに!」
まだ小学生だった妹の、見たこともない血走った目と、異様な熱を帯びた声に頭が真っ白になった。
後日談:
後日談はまだありません。
この怖い話はどうでしたか?
chat_bubble コメント(0件)
コメントはまだありません。



