
私の妹はトランプが嫌いだ。
「理由はわからないけれど、トランプを見るのが嫌なの」
幼かった妹はあの日のことをすっかり忘れてしまったのだろう。
その方がいいのかもしれないけれど・・・。
夏休みを利用して私たち家族が母の田舎の実家に泊まりに行ったのは、私が小学三年生の頃だった。
母の実家は目の前に田んぼが広がる旧家で、その夏は私たち以外にも親戚の家族が泊まりにきていた。子ども同士で仲良く過ごしていたけれど、中学生のお兄さんやお姉さんたちよりも同じ年頃の“きくちゃん”と過ごすことが多かった。
きくちゃんは小学五年生と話していたけれど、私よりも背が低く肌は病的なほど白い女の子だった。
きくちゃんはいつも押し入れの中で過ごしていて、けっして押し入れから出ることはなかった。
私も運動は嫌いだったけれど、特にきくちゃんはその傾向が強いみたいだった。
だから決まってきくちゃんと遊ぶ時は、押し入れの中でおしゃべりをしたりトランプをした。
楽しい時間はあっという間に過ぎてしまう。夏休みが終わる少し前、私たち家族は先に帰ることになった。
きくちゃんにそのことを押し入れの中で伝えてると「そんなの駄目だよ?」と普段とはあきらかにちがう口調できくちゃんが怒りだした。
私が謝りながら押し入れから出ると、まだ押し入れの中にいた妹の腕をぎゅっときくちゃんが掴んで、なかなか放してくれなかった。
「放してよ!!」
しまいには妹は泣きだしてしまった。
それでもきくちゃんは放してくれなくて、妹の腕からは血が流れだしていた。
畳には妹の血と一緒にいつも使っていた薄汚れたトランプが散らばっていた。
「どうしたんだ?」
妹の泣き声で親たちが来ると、きくちゃんは腕を放して押し入れの奥に隠れてしまった。
結局、きくちゃんを見たのはそれが最後だった。
帰る時に他のお兄さんとお姉さんたちはお見送りに来てくれたのに、きくちゃんの姿はなかった。
そして次の年の夏休みになる少し前、母の実家は不審火による火災で全焼してしまった。
幼稚園児だった妹はきくちゃんのことを覚えていなかった。そもそも田舎に行ったことすら覚えていなかった。でも、トランプだけはどうしても嫌いだ。
ちなみに、母にきくちゃんのことを訊いてみたが、そんな子は知らないと言われてしまった。そもそも私たち姉妹以外は全員中学生だと言っていた。
では、あの押し入れの中にいた女の子は誰だったのだろう?
了
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