
「はぁ、またか。」
寒さが身にしみる冬の夜、父親の貴志は廃墟となったビルの一室で、娘の帰りを待っていた。薄暗い部屋には、かすかな風が吹き抜け、埃っぽい空気の中で不気味な静けさが漂っている。彼は何度も時計を確認し、背後に感じる冷たい視線を振り払うように振り返った。
一体、いつまでこの場所で待ち続けなければならないのか。心の中で不安が膨らむ。
「もう帰ってこないのか?」
貴志は小さく呟く。数日前、娘の美沙が友人と遊びに出かけたまま、行方不明になってしまった。彼女が最後に目撃されたのは、この廃墟の近くだった。警察も捜索を行ったが、手がかりは見つからなかった。人々はこのビルを避けるようになり、恐怖の対象として語り継がれている。
貴志は、昔のことを思い出す。美沙はいつも人形遊びが好きで、彼女の部屋にはたくさんの人形が並んでいた。中でも一番のお気に入りは、古びた人形だった。目が細く、少しだけ笑っているような表情が、時折不気味に感じることもあった。
その人形が、今も美沙の帰る場所で待っているのだろうか。父親としての無力感が胸を締め付ける。ついに、彼は立ち上がり、部屋の奥を見つめた。
「美沙、どこにいるんだ?」
その時、彼の耳にかすかな声が聞こえた。「おとうさん…」
驚いて振り向くと、そこには人形のように不自然に動く美沙の姿があった。目は虚ろで、まるで誰かに操られているかのようだった。貴志は心臓が高鳴る。
「美沙!お前、どうしたんだ!」
彼は急いで美沙に駆け寄ったが、彼女はその場で立ちすくみ、微動だにしない。父親の呼びかけにも反応しない。
「お前、怖がっているのか?」
その瞬間、背後の壁から声が響いた。「貴志、私の言った通りだ。お前は娘を見捨てた。」
振り返ると、そこには、かつて貴志が弁護した連続殺人犯、影山の姿があった。彼は冷たい笑みを浮かべ、指差す先には美沙がいた。
「お前の娘が私の人形になった。お前のせいだ。」
貴志は恐怖に震え、真相に気づく。影山は投獄されたが、その魂はこの廃墟に漂い、彼の娘を影響下に置いていたのだ。息子を失った無念が、今度は娘を犠牲にしようとしている。
「いや、そんなことは許さない!」
彼は影山に向かって突進するが、すぐに壁に叩きつけられ、意識を失った。目が覚めた時、自身は真っ暗な部屋に横たわっていた。木造の人形が周囲に並び、その中には美沙の姿もあった。彼女は微笑みながら、父を見つめていた。
「お父さん、ずっと待ってた。」
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