
数年前、私が勤めていた高層オフィスビルには、奇妙な噂が流れていました。
それは「手だけの霊が出没する」というもので、かつて働いていた社員が未練を抱いて現れるのだと語られていました。
その霊に関する証言は多く、私自身も目撃したことがあります。肘から手のひらまでの、色白で洗練された女性の手が独りでに動く様子は、最初は恐怖を感じました。
普通であれば、手だけの霊がオフィスに現れるなんて不気味で、恐れを抱くのが当然です。しかし、意外にもこの手の霊を歓迎する社員が多かったのです。理由は、手が仕事を手伝ってくれるから。
例えば、「電気をつけて」と言うと、カチッという音と共にフロアのライトが点灯します。また、「この資料はどこだ?」と呟くと、気がつくとその資料が机の上に置かれていることもありました。
手だけが目の前に現れて驚くことはありますが、決して怖がらせることはなく、むしろ親しみを込めて「手村さん」と呼ばれ、社員たちに愛されていたのです。
しかし、幽霊は幽霊。やはり怖い一幕がありました。
私の職場には、横暴な態度で知られる男性社員がいました。彼は自分の気に入った社員には優しく接する一方で、他の社員に対しては冷酷無比でした。
私は彼の標的にされ、精神的に追い詰められていきました。何度も上司に訴えましたが、彼は社長の親戚であるため、問題は聞き入れられませんでした。
そんなある日、彼に強く抑圧されていた女性社員が、無断欠勤をしました。そのことに対し、他の社員は理解を示しましたが、彼はその女性社員の家に電話をかけ始めました。
何度もかけるも繋がらず、彼の苛立ちは募ります。周りの社員は誰も彼に近づこうとはせず、彼を止める者はいなかったのです。
すると、彼は突然立ち上がり、「あの女を連れて来い!」と叫びました。常識を逸した発言に、誰も彼に従おうとはしません。すると、彼は社員たちを罵倒し始めました。
その時、突然、彼の喉から「ぐぇっ」と詰まった声が聞こえました。驚いて彼を見やると、そこには手村さんが立っていたのです。
「誰だ!俺を押したのは!」
彼は周囲を見回しましたが、誰も近づいていません。手村さんは彼に気づいていないようで、怯えながら周囲を見回していました。その瞬間、手村さんは再び彼の背中を押しました。
ドンッ
「なんだ!?」
ドンッ
「もうやめろ!」
彼が立ち上がるたびに、手村さんは彼を突き飛ばし続けました。次第に彼の顔は青ざめ、恐怖に震える様子が伺えました。
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