
中編
猿神に愛された結末
ナベちゃん 2020年5月22日
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私の故郷に小さな神社がある。
常駐の神主さんなどいない、本当に小さな神社で、田舎によくある、賽銭箱も、大きな鈴のガラガラすら無い参拝者は何をしたらいいかよく分からないやつ。あれを想像して貰いたい。
その神社はあまり人通りの少ない場所にひっそりとあり、昼間でも何か暗く不気味な雰囲気があった。
この前帰省した時、私は久々に会った友達と共に酔った勢いでふざけてその神社に肝試しに行ってしまった。
敷地内に入ると、中は思ったより広かったが、前客が置いていったのであろうゴミが少し落ちていた程度でなにも無い。
私達は飽きて帰ろうとした、そのときだった。
私は奇妙なものをみた。
本堂の端からこちらをのぞき込んでいたのは猿だった。見わず言わざる聞かざるの、聞かざる、見たいなポーズで上半身だけ出してこちらを覗いている。
ただ足だけ何故か鶏のようだった(今考えるとおかしい。だって上半身だけ本堂から覗いていたはずなのに、何故足が見えるのか…)。
私はすぐに、あれ!と小声で叫んで友人の肩を荒く掴んだ。友人もすぐにそっちを見たが何もないじゃん、という。
どうやら私だけに見えているようだ。
私は恐怖のあまり思わず無言で逃げ出し、それを見た友人も困惑しながら追ってきた。
友人には見えなかったのもあり、その日はなんとなく白けてお開きになった。
実家に帰り、翌日、親や爺婆にあの神社のことをそれとなく聞いて見たが、何も知らないという。
肝試しに行ったことも、そこで見た猿のことも話してみた。
…が、ふーん程度で、婆ちゃんだけが交通安全の御守をくれた。
田舎系の怪談にありがちな〇〇様を見たんか?!みたいな展開は無く…実際はそんなものか。
その後、都心の我が家に帰ってきたのだが、そこから真の恐怖は始まる。
窓にあの猿が映るのだ。
いや、窓だけでは無い。鏡とか、湯船の水面とか、携帯の画面とか。
自分の姿が映るものに、一緒に映ってくるのだ。
何かされたりは無いが、いつも自分の右隣に居て、それでじっと私を見てくるんだ。
私はもうノイローゼみたいになって、仕事も休んで家から出ずに引き籠もって震えていた。こっちには友達は居なかったが、当時付き合っていた彼氏が居て、何かと励ましてはくれたが、仕事が忙しく中々会えなかった。
会えなかったのもあるが、彼氏と連絡を取ったり、家に来たあとはキーキーと鳴き声?が聞こえるんだ。何かに映った時でなくても。
なので、それも怖くて、そんなに頼れないでいた。
そんなある日の夕方、ついにその時が来た。
突然だったのに、ついにって書き方は何となく予感はあったんだろうね。
その日もずっと引き籠もって寝てて、気がついたら夕方になってた。夜の窓は鏡になるけど、まだ夕日があるし、と油断していた。カーテンを開けて、外を見たんだ。
そしたら、ベランダに猿が、居た。
窓に猿が映ったとかでは無い。窓一枚を隔てて、実体をもって、確かにそれは居た。
そして様子も違ってて、いつもその猿は裸で現れるのだが(足が変だけど猿だし当たり前か)、その日は黒い着物のような物を着ていた。その姿がまるで、日光猿軍団みたいでおかしくて、いや、笑えないし凄く怖いんだけどね。
精神的にも限界が来てたみたいで、思わず笑いが止まらなくなったんだ。
そしたら急に、あ、これもう駄目だ。迎えに来たんだ。
私、お嫁に行くんだ。
って何故か急に頭をよぎったんだ。
そしたら気絶していて。目が覚めたら4時過ぎで、外は明るんでた。
体も部屋もどこも異常は無かったんだけど、それから心にぽっかり穴が空いた感じ?がずっと続いている。
あれから猿も一切現れなくなった。
私には何も分からないけど、きっと私の魂はあの時、何処かへ連れて行かれてしまったのだと思う。
今は、魂無くても生きられるんだっておかしなことを考えてる。仕事にも行けるようになったし、感情も普通にある。
でも、心の一部に風穴が空いていて、常に隙間風が吹いているのような…この感覚は何と表現すればいいのか。苦しくは無いし、支障も無いんだけど、違和感がずっとある。
あと、何より辛かったのは、あの日から彼氏に関する全てが消えてしまったことだ。携帯の履歴も、共通の知り合いにも、彼が努めていたはずの職場にも。どこにも彼は残って居なかった。
もし私のせいなら本当に悔やまれる。いっそのこと、はじめから私の妄想であって欲しいと、本当に強く願っているが、多分違うと思っている。あの猿は嫉妬深かったんだと思う。
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