本当にあった怖い話

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長編

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( ・ㅂ・)و ̑̑ 2019年5月26日
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はじめに。この物語とは関係ないので、面倒な方は読み飛ばしていただいて構いません。 『本当にあった怖い話』のサイトでこんなことを言うのもどうかと思われるかも知れませんが、あえて一言。 「事実は小説よりも奇なり」なんて言いますけど、「本当にあった」心霊体験なんてそれほど怖くないものがほとんどなんです。 考えてみてくださいませ。もしあなたがこの上なく苦しんだ末に死んだところで、それを全く関係ない他人を巻き込み、恨み、取り憑くことで自らの不憫な思いや憎悪を晴らそう、なんて思うでしょうか。 一部の人(幽霊?)は思うでしょうが、大抵は思わないはずです。 古くから怪異譚として語られてきたものの中には単純な恐怖が目的のものもありますが、多くは教訓じみたものやどこか妖美さ、不思議さを感じさせるものばかりでございます。どうか皆々様、それをご理解の上で『本当にあった怖い話』のご投稿、ご閲覧を。 今回私がさせていただきます話も、そういった少し不思議な話でございます。決して背筋の凍るような話ではありませんので、怖かったかどうかの評価はしていただかなくても結構です。 もっとも、この話が「本当にあったものか」、あるいは「誰が体験したのか」は伏せさせていただきます故に、ジャンルは「その他」にしてあります。全くのフィクションと考えてくださっても、あるいは私が実際に経験した出来事と考えてくださっても構いません。 さて、前口上が長くなってしまいました。どうぞ本編をお楽しみください。 人称は「彼」で統一します。 当時大学生であった彼は他の多くの学生と同様アパートで独り暮らしをしていました。親からの仕送りがほとんどないのがネックでしたが、給料の高いバイトをしていたこともあり、生活にはあまり困っていませんでした。 この高額のバイトというのがまた曰く付きの、色々な意味でかなり「ヤバい」ものなのですが、それはまたいつか機会があればお話いたします。 ともあれ、彼は周りの学生より幾分か裕福な生活をしていたのですが、ある日を境に一つだけ、たった一つだけ悩みの種ができたのでした。 彼は毎朝起きるとまず最初に部屋のカーテンを開けるという、まあ何ら特別でもないルーティンがあったのですが、その日彼がカーテンを開けると、彼の住む二階の部屋の窓の外、アパートの裏の少し広い通りの真ん中に男が立っているのが見えたのです。 シワのない真っ黒なスーツを着て青みがかったネクタイをしており、一見するとどこにでもいるサラリーマンなのですが、何故かその男は裸足なのでした。 いわゆる『左巻き』の人であろうと考えた彼はその男を無視し、その日は朝からバイトでしたので支度をし、家を出ました。 出かけるついでにその通りを通ってみることにしたのですが、男の姿は見えません。安心した彼はそのままバイトへと出かけました。 家に帰った彼が部屋の電気をつけ、カーテンを閉めようと何気なく窓の外を見ると、通りの街灯の下にまたあの男がいたのです。おまけに、今度はこちらの方をじっと生気のない目で見つめていたのでした。 怖くなった彼はその日はそのままいわゆる「寝逃げ」をしたのですが、朝になってもカーテンを開けることはしませんでした。 そのまま数日の間彼は一度もカーテンを開けずに、しかしバイトに出かける度に件の通りを通るのですが、男の姿はどこにもありません。どうやらその男は彼の部屋からでないと見えないらしい、と彼は考えるようになりました。 初めて男を見かけてからちょうど3週間経ったその日の朝、彼は思いきってカーテンを開けました。 果たしてその男は通りの真ん中で、やはりこちらを見つめていました。やはりあの生気のない目で。 その時彼は、男の口がずっと動いていることに気付きました。絶え間なく、何度も何度も同じ言葉を繰り返し、噛み締めるように呟いているようにも見えました。 読唇術なんて身につけているわけがない彼は男の呟く内容がわかりません。気味が悪くなり、カーテンを閉めます。 それからというもの、彼は毎朝男の存在を確認すると、必死で唇の動きを読み取ろうとしました。そうは言えども、たいして目が良いわけでもない彼はにはそれは至難の業でした。 そんなある日、とうとう彼はある発想に辿り着いたのです。 それ即ち、 「この窓から外に出れば、男を見失わずに男の側まで行けるのではないか」 という単純で、なぜ今まで思い付かなかったのか不思議になるほどのものでした。 男は早速窓を開け、窓から外に出ようとしました。その瞬間、彼はある妄想に取り憑かれたのです。 「自分がこの窓から下に飛び降りたとき、果たして自分は無事でいられるだろうか?」 たかが二階の窓から落ちたくらいで死ぬことはないだろう、と彼は夏目漱石のとある小説を思い出して考えたのですが、なぜかその考えが頭を離れません。自分がこの窓から飛び降りたとき、何か取り返しのつかないことになる、と本能が知らせていたのです。 彼は窓枠にかけていた手を外し、部屋に戻りました。男は相変わらず何か呟いています。 それから毎日彼はカーテンを開ける度、 「飛び降りて確認したい」 という欲求と 「飛び降りてはいけない」 という二つの考えに板挟みになり、1ヶ月経った頃にはほぼノイローゼに近い状態になっていました。 実はこの話はここでお仕舞いです。 なんだよここで終わりかよクソッタレが、なんて言わないでください。彼も大変なのですから。 ちなみに、彼はこの出来事から数年が経過した今でもその部屋に住んでいます。駅から近く、住み心地も(この一点を除いては)非常に良いものであるため、手放したくないのです。 そうそう、最後に一つだけ。 『彼がこの部屋から飛び降りたのかどうか』 に関しては、あえて言わないでおきます。 彼は実際に飛び降りたのか、もし飛び降りたとしたら一体その後何が起きたのか、一体何を目にしたのか、飛び降りることのないままノイローゼ状態が続いてもそんな部屋に住んでいられるほど彼は神経が太いのか、そして、彼は今も無事なのか。 どうなのでしょうね。 でもそれは言わない方がいいでしょう? だってこれ、本当にあった「怖い話」ですから。 結末は言わない方が「怖い」でしょう? それでは皆々様、ここまでお付き合いいただきありがとうございました。 またいつかお会いできるといいですね。

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