
長編
祖父とトンネル
たろう 2019年6月10日
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実体験で怖くないと思いますが、体験した私には恐ろしく、
未だに分からず気になる事なので、
書きます。
父方の祖父が亡くなり、葬式にワタワタと出かけた時のことです。
私は新卒で入社したばかりの6月でした。
祖父は病のせいで、先が長くないと言われ、色々あり疎遠でしたので、初孫でした私は「私の顔でもみせてやんべ。」と一週間前に顔を見せに行ったばかりでした。
訃報は出社したばかりの朝礼前の時に、母からの電話でした。
夏になったら、また来る、じいちゃんの誕生日を祝いに今度は弟二人も連れて来る。
そう言った私の手を強くグッと握った祖父の手と、衰弱し管の通された口のせいで、上手く舌の回らない声を今でも覚えています。
会社には、早退と忌引休暇を申し出、家にとんぼ返りしました。
私の実家は関東で、父方の祖父の家は東北です。
家に帰ると、母が涙の残る目元も拭わず大きいバックに荷物を詰め込んでいました。
私は大丈夫かと、言うと母は、うん、と頷き泣き笑いを浮かべながら、先週が最後になってしまった…と後悔を零しながら荷造りをしていました。
私もそれを手伝いながら、私が顔見せなかったらまだ意地でも生きていてくれただろうかと馬鹿みたいな事を考えていました。
その日の夕方、関東から、東北に来るまで向かう事になりました。
弟二人は学校がそれぞれあり、帰ってくるのは遅くなるとの事でしたので、翌日の朝、新幹線で来る事になり、父の兄、私から見た叔父を車でピックアップして東北に向かいます。
父は、先に新幹線で東北に向かいました。
病院での遺体の預かりがなかったので、死んだら直ぐに業者に渡されてしまうそうです。
祖父の家に行くのはいつも車でしたので、道中の心配はありませんでした。
ただ、いつも少し違ったのは父ではなく、叔父の運転というところでしょうか。
私の父や、叔父は怪異に見舞われる事がある人で、そう言った類の話は強請って話してもらっていました。
私自身、見はしませんが、感じる事は多々あると思っていますが、気のせいと思う事が多いです。
母は…恐らく何も感じないタイプです。
道は高速を使います。
私は免許を持たない人間ですので、高速の名称は疎く詳しい説明は出来ないのですが、あまり東北道を使わないルートを選ぶのがいつもでした。
なんでも直線が多く眠いらしいです。
また、父と叔父は新しい物好きの面があり、新しい道路、ナビにまだ乗ってない道を良く使います。
先週は父の運転で、新しい有料道路を通り、いつもより少し早く着いたので叔父もその道で行く事にしたようでした。
その道はまだ未完成らしく、途中で一般道に降りて、また乗ってをする事がある道でした。
父は勘が良いというか、知らない道でも目的地につけるような、道を読むのが上手い人なので、するするとその時は上手く有料道路に戻れたのですが…
今回はそうはいけませんでした。
有料道路を降り、街灯が少ない、民家がポツンポツンとあるような、道を走ります。
時刻は深夜だったかと思います。
確かここの道だったはずと、母が道案内をしながら叔父が車を進めます。
本当にこの道かと、思うような道で分かりにくい場所にあったので一発で道を嗅ぎ分ける父は凄かったと思います。
まぁ、要するに。
迷いました。
さて、何処まで戻るかとなった時に脇道から一台車が出てきて前を走って行きました。
叔父がまぁ、前について行って着いたらラッキーで
と、いい、着いて行く事にしました。
真っ暗な田舎道に変わり、山の方に向かっていきます。
確かに有料道路は山の方にあったと私も母も把握していたので大凡あっているだろうと、思っていました。
前の車が左折し、山を登って行くような道に入って行きました。
山を登る様な道を通った覚えはないので、あ、地元民だったかとガッカリしました。
民家があったら困るし、つけられて自宅まで来られたら前の車の人も迷惑だろうと左折はしないで良いんじゃないかという
母に対し、
叔父はここまできたし、家なら道聞くでもいいし、
最悪戻ればいいべと、着いて行く事に。
私は内心、わー冒険やーと、深夜のハイテンションで、叔父の意見に賛同し、GO GO!とふざけていました。
車が急な山道を登ります。
バックで下るにはちょっと怖い角度です。
四駆でしたので、ガッと登り切ると一本道、山に向かってポッカリ真っ暗なトンネルがあるだけです。
本当に真っ暗。
普通トンネルの中ってオレンジの蛍光灯が光ってますよね?
それもなく、光の一切ないトンネルでした。
古く短い距離ならない場合もありますが、向こう側が見えない程の長さである事は確かそうです。
そのトンネルを見たときの嫌な感覚は忘れられません。
ツンと頭の奥で良くない、という緊張感が張り詰め、
喉がキュッとしまり、背筋に鋭い物が当てられた様な感覚…。
なにより、気持ち悪いのが、確かに前の車との距離は空いていましたが、この真っ暗で先の見えないトンネルをライトも点けずあの車は進んでいったのか。
はたまたもう通り抜けて行ったのか、この先の見えないトンネルを。
トンネルを前にし叔父が車を止めます。
各々、思考を巡らせる静寂が車内に流れます。
嫌な感じ
それだけは確かです。
「叔父さん、戻ろう」
ふと、死んだ祖父の姿が脳裏を過ぎりました。
私がいうか、叔父が乱暴にバックし車の向きを切り替えるのが先か。
捕まれ、そう叔父はいうと、坂道を下るにしては強めにアクセルを踏みスピードを出し道を下りました。
その間私は叔父さんっ!叔父さんっ!と、もっと早くと急かしていました。
母は何故こんなに慌ててるのかと行った風にキョトンとしていましたが、私と叔父の只ならぬ雰囲気に察したのか黙っていました。
振り向く勇気はありませんでした。
何かがいるとかではないです。
ただ、行ってはいけない場所。
その意識が強く、何でもいいからあの場から離れたかった一身でした。
坂を下り、来た道を戻らずに祖父の家のある県の方角へ車を無言で走らせて行きました。
何を言うか躊躇うほど、私は緊張していました。
例のトンネルからだいぶ離れ、無言で道を探していると、本来乗るところよりも一個先の有料道路の入り口を見つけて乗ることができました。
有料道路を走りながら、私はやっと人心地つけた様な気になり、意を決して叔父に尋ねました。
「何か、みた?」
「いや…おまえは?」
私は、見てない。でも酷く嫌な感じがして焦ったと答えると
叔父はそうかと、言って押し黙ります。
霊感とまでは行きませんが、私より経験の多い叔父の事です。何かあったのではと思い、追求します。
「なんで、急に向きを切り替えたの?私が言うより早かったよ?」
少し黙って、叔父は
「親父の怒鳴り声が聞こえたんだ。昔っから聞き慣れた怒鳴り声で『戻れ!!!』って」
だから、慌てて切り返した。
そう言って、にしても変な道だったな!と、おちゃらけ始めたので、私もほんと気味が悪いとこだった!と乗っかり、母は叔父さんが心配で、お義父さん化けて出てきたのよと、3人で何とか笑い話にしました。
その後無事にたどり着き、葬儀や諸々を無事に済ませることができました。
ただ、数年経った今でも何だったのだろうと回想します。
進んでいたらどうなっていたのか、
そもそも前を走っていた車は?
叔父が声を聞いたのと、私の脳内で祖父の姿が過ったのは同じタイミングだったのでは?
オチのない話で申し訳ない。
ただ、安易に田舎は知らない車について行くべきではないし、
どんなに眠い道でも、整備され誰でも確実に目的地につける道を選ぶべきだと思いました。
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