
自分の気持ちを整理するためにこうして、文章に書き起こしている。耳鳴りがひどくて集中できない。何かに取り憑かれたようだ。社会人になって結婚し、今年で5年目。ようやく子どもを授かることができて、まさに人生の絶頂期といって差し支えないだろう。妻のお腹も順調に大きくなり、俺は毎週末の診療に付き添い、将来の夢を膨らませていた。しかし、その夢がもう叶わないかもしれない。どこから話すべきか…。あれは大学2年の冬だった。大学生たちの間で流行っていた肝試しの企画が持ち上がった。俺たち5人は、郊外にある廃墟に肝試しに行くことにした。そこは昔、子どもたちが失踪したことで有名な場所で、地元では「失われた人形の館」と呼ばれていた。俺は正直、怖がりだったから参加をためらったが、仲間たちの誘いに負けてしまった。深夜に車を走らせ、廃墟に到着する。言葉少なに車を降り、廃墟の前に立つ。月明かりの中、ボロボロの壁や崩れた屋根が不気味に浮かび上がる。俺たちはそのまま中に入っていった。奥に進むにつれて、冷たい風が吹き抜け、心臓が高鳴る。薄暗い廊下を進み、雑音が消えると、静けさが迫ってきた。ふと、目の前に古びた人形が置かれているのを見つけた。驚くほどリアルな目を持つその人形は、まるで生きているかのように俺を見つめ返してきた。誰かが言った。「この人形を持って帰ろうぜ」。俺は嫌だった。なんだか悪い予感がしたが、他の仲間たちは興奮していた。渋々、一緒について行くことにした。人形を持ち帰った瞬間、異変が起こった。耳鳴りがひどくなり、仲間たちの声がかすかに聞こえた。「助けて…」。何かが俺の周りを取り囲んでいる気配がした。恐怖に駆られた俺たちは、急いで廃墟から逃げ出した。帰り道、何度も転び、泥だらけになった。あの日のことを思い出すと、今でもぞっとする。数日後、俺は人形を手放したが、耳鳴りは収まらなかった。数週間後、妻の妊婦健診に付き添った時のことだった。エコー画面を見つめると、そこには人形のような姿が映っていた。医師が何かを呟き、妻は泣いていた。「この子は…」。その瞬間、俺は全てを思い出した。肝試し、廃墟、そして人形。逃げられたと思っていたが、実際は違った。あの日の呪いが、俺たちを見ていたのだ。妻が言った。「この子は産まなきゃいけないの」。その目は焦点が合っていなかった。耳鳴りが続く中、無邪気な声が響く。「ありがとう、ありがとう、ありがとう…」。ついに出産の日が来た。耳の中の声は消えた。分娩室のドア越しに聞こえる助産師の叫び。俺はあの日の「産声」を待ち望んでいた。果たして、何が生まれるのか…
後日談:
後日談はまだありません。
この怖い話はどうでしたか?
chat_bubble コメント(0件)
コメントはまだありません。


