
それは初春の薄曇りの午後、肌寒さが残る日だった。
その日は土曜日で、仕事を休んでいた俺は、古い本を捨てるために近所の書店に向かった。
国道を10分ほど走ると、左手に見覚えのある看板が現れた。
「あなたの街の古本屋『N』」
徐々にハンドルを切ると、広い駐車場の向こうに、薄暗い色合いの古びた建物が見えてくる。
土曜日ということもあり、駐車場にはすでに数台の車が停まっていた。
車を止め、準備していた段ボールを台車に乗せて店内へと進む。
自動ドアが開くと、薄暗い店内が目の前に広がった。
棚には様々な古本が整然と並べられ、数人の客が静かに本を選んでいる。
カウンターに近づくと、優しそうな書店員の女性が笑顔で出迎えてくれた。
「こちら、買取りですね。ありがとうございます。
必要事項をこちらにご記入ください。」
彼女が手渡したのはA4サイズの用紙だった。
椅子に腰を下ろし、ボールペンで必要事項を書き込む。
その時、彼女は言った。
「買取査定には約20分ほどかかります。お呼びしますので、こちらの番号札をお持ちください。」
番号札は「5」と印字されていた。
用紙を記入し終えた後、店内を探索することにした。
古い文学書や雑誌、様々な本が並ぶ中を漫然と歩いていると、奥の方に薄暗いコーナーが目に入る。
そこには大きな本棚が立ち並び、いつの間にかその奥に進んでいた。
最奥の壁には、二つの扉が並んでいた。左側には【倉庫】、右側には【立入禁止】と書かれたプレートがあった。
ふと尿意を覚え、トイレに足を運んだ後、再び入口の方へと向かおうとした時、何故か左隣の「立入禁止」のドアが気になり、周囲を確認しながらそっとノブを回した。
ドアはすぐに開き、薄暗い室内を覗くと、そこは意外にも広く、何人かの男女がうろうろしていた。
彼らは皆、古本の山に囲まれており、一部は何かを計測しているようだった。
その中には、俺が知っている顔もあった。
あれは、俺がよく見かける同じ町内の阿部さんだ。
彼は異様な光景の中で、スタッフと話し込んでいて、何やら難しい表情を浮かべていた。
その時、室内に響くアナウンスが耳に飛び込んできた。
「番号札『5』のお客様、買取り査定が済みましたので、カウンターまでお越しください。」
俺はそっとドアを閉じて、何事もなかったかのようにカウンターへ向かった。
「さて、いくらになるかな?」
ひとしきりぼやきながら駐車場に戻ると、外には青い車が停まっていた。
その車の側面には、古本屋のロゴが描かれていた。
後日談:
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