
都市の外れにある廃工場は、昼間はただの無機質な建物だが、夜になるとまるで別の顔を見せる。俺は普段の運動の代わりに、気分転換に夜の散歩をすることにした。時刻は深夜の1時、冷たい風が頬を撫でる。街灯も少なく、ただの暗い道を進む。いつも通りとは違った不安感が、心の中にじわじわと広がっていく。
工場の前に着くと、かすかな温かい食べ物の匂いが漂ってきた。それはまるで、誰かが中で料理をしているかのようだった。しかし、廃工場の中に人がいるはずがない。気のせいだと思い、俺はそのまま歩き続けた。だが、匂いに誘われるように、工場の扉を開けてみることにした。すると、薄暗い中で一人の女性が立っていた。彼女は長い髪を垂らし、白い服を着ていた。驚いた俺は思わず声を上げてしまった。
「何をしているんだ!」
その瞬間、彼女は振り向き、目が合った。彼女の顔は無表情だが、目の奥には何か狂気が宿っている。俺は逃げようとしたが、彼女は驚くほどの速さで俺の前に立ちはだかった。焦りで心臓が高鳴る。工場の中は暗く、周囲の状況を把握する暇もない。俺は逃げるために全力で走り出した。だが、彼女はまるで影のようについてくる。振り返ると、彼女は今までの無表情とは打って変わり、にやりと笑っていた。彼女の笑顔は、まるで獲物を狙う捕食者のようだった。
何とかして脱出した俺は、近くの24時間営業のカフェに逃げ込み、震える手で温かい飲み物を注文した。安堵感が胸を満たしたが、心のどこかに彼女の笑顔が焼き付いていた。これから先、夜の散歩は避けるべきだと決意した。だが、あの工場の前を通るたびに、あの女性が再び現れるのではないかという不安が心に残り、振り返ることができなかった。もう一度出会ったら、果たして逃げ切ることができるのか、その恐怖が頭を離れなかった。
その後、俺はあの廃工場には二度と近づかないと誓った。だが、次の冬の夜、再びその匂いが漂ってくるのを感じた時、俺は恐れと共に立ち尽くすしかなかった。
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