
長編
登山者の体験
匿名 2015年1月18日
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大学の校歌歌ったですもんね。一人で、大声で……」
A君は、校歌を歌いながら、バタバタと大騒ぎで坂道を下り続けた。と、
「今度は、行く手というか道の上を照らしていた懐中電灯の光が、突然消えたんです。手元の懐中電灯はちゃんと点いているのに、照らしている先がないんです。走っている間じゅう、ずっと白っぽい光が見えてたんですけど、それが、ふっと見えなくなったんですよ」
転げるように走っている最中だ。
そのことに気付いて立ち止まろうとしたのだが、なにしろ下り坂で勢いがついているため、急には止まれない。
A君は何メートルか惰性で進んでしまった。
と、突然、ものすごい風が顎の下のほうから吹いてきた、という。
「あわわ……」
A君はつんのめった。
つんのめったおかげで、やっと止まることが出来た。
懐中電灯の光が消えるはずである。
A君がやっと止まったところから50センチほど先は、底も見えないほどの深い谷になっていたのだ。
「危機一髪でした。谷底から烈風が吹いてきて助かったんです。あの風がなかったら確実にお陀仏ですよ。それよりもっと怖かったのは…」いったい自分は、なんでこんなところに立っているんだろう……ハアハアと肩で息をしながら、崖の縁に立ち尽くしたA君が、ゆっくり振り返ってみると、
「!?」
すぐ後ろに、何十という墓石が、ひしめくように並んでいたのである。
それは、寄り添ってA君の背中をじっと見つめているように見えた。
真っ暗闇であるにも関わらず、墓石の一つ一つが、ぼーっと浮き上がるように見えている「ギャー‼」
A君はまた走り出した。
走りながら、こんなところに墓地などあるはずはない、などと考えたが、とにかく、走るよりほかはなかった。
どこをどう走ったのか全く覚えていない。
その間、時々、後ろから誰かに肩をつかまれたというが、
A君は一度も振り返ってはいない。
「肩もつかまれたけど、そいつというか、
ソレはなんとなく右側の後ろのほうにいる、という感じがずっとしてました。なんか視線を感じるんですよ。ついてきていたのかもしれないでも逃げるのに必死で、振り返るなんてとても出来なかった。とにかく人がいる場所にさえ行けば……とそれだけでした。」
あの時坂を登ってさえいれば、とっくの昔に山小屋に着いているはずなのに、という思いが頭をかすめたが、今となっては遅すぎた。
A君は、真っ暗な山道をわーわー騒ぎながら、パニックの極致で走り続け、途中で
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- どこの山? 鹿児島のS山で似た体験をしました霊子