
長編
登山者の体験
匿名 4日前
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リュックも投げ捨てたという。
どれくらい走っただろうか、今度は先刻からわずかに靄っていたガスが濃くなってきて、あっという間に20センチ先も見えない、という状態になってしまった。
泣きっ面に蜂である。
あたりは白一色。もちろん振り返ったところで何も見えない。
懐中電灯は点いてはいるが、その光は白い空間に吸い込まれるばかりで、果たしてそこが道なのかどうかもわからなくなったという。
さっきのようなことになっては危ないから、と、A君はありったけの理性でその場に立ち止まった。
すると、
「遠くのほうに何人か子供が立っているんです」
A君の行く手十メートルほど先に、小学校の高学年くらいの子供が、5人いるのが見えた。助かったと、A君は思った。
「なんか、人がいたというだけでほっとしたんですけど……」
真夜中だというのに、子供たちは元気な声で騒いでいる。「バカやろー」
「うるせー」
集まって何かゲームでもしているのか、汚い言葉を吐きながらも楽しそうな様子に見えたという。
きっとキャンプ場もすぐそこなのだろう。
A君はそう思って、その子供たちのほうに向かって、引き続き歩き出したのだが、
「……うん!?」
A君は、やっと気が付いた。
あたりは濃霧である。
自分の手のひらさえ、こうやって目の前に持って来ないと見えない状態ではないか。
どうして、あんなに遠くにいる子供たちだけがはっきり見えているのか?
そう思いながら、目をこらすと、
「なんかうすボケているんですよ。うまく言えないんですけど、輪郭だけあって半透明で色がない感じって言うか……」
―あいつら、人間じゃない―
またパニックに陥ったA君は、再び今度は逆方向走り出した。
すると、「いきなり、キナくさいにおいがしてきたんです。火事のようでもあったし、たんぱく質のが焦げるようなにおいでもあった。とにかくイヤーなにおいでした」
走るA君を追うようにして、そのにおいはずっとつきまとってきたという。
「それにやっぱり、このへん(右肩すぐ後ろ)に誰かがピタッとくっついている感じもずっとしてました。」
濃霧の中、A君はがむしゃらに走った。
「バカやろー」
「ふざけんなー、てめー」
走っても走ってもキナくさいにおいがして、時々後ろからさっきの子供の声がしたという。
その声は、お互いに呼び掛けているのではなく、明らかにA君を罵っていたのである。その証拠に、
「ネルのシャツの襟を、後ろから引っ張られて
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- どこの山? 鹿児島のS山で似た体験をしました霊子