
長編
おめめちょうだい
匿名 2016年10月10日
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これは友人から聞いた話です。
話す上では三人称では文が少々ややこしくなってしまうので、一人称でその友人目線で話します。
これはバイト帰りに暗い夜道を自転車で走っていた時に起きた出来事です。
はぁー、バイトだるかったなぁ〜と取り留めもないことを考えながら私が暗い夜道に自転車を走らせたていた時でした。
不意に小さな年齢は五、六才とおぼしき女の子が道路の端に座り込んでいるのが目に入りました。
今は深夜0時にも差し掛かる時間帯で、普通なら不気味に思うものですが、その時は何故か不気味には思いませんでした。
それどころか、どうしたのかな?迷子なのかな?とその子のことが心配になり、自転車から降りて声をかけてみることにしました。
「どうしたの?大丈夫?」
「……………」
自転車から降りて女の子に近づき、中腰になって優しく声をかけましたが、返事がありません。
「どうし」
「お姉ちゃん……」
不安過ぎて聞こえないのかな?、と思い、再度声をかけようとしましたが、その声がうずくまる女の子の声に遮られました。
「ん?何?」
少しでも女の子の不安をほぐしてあげようと、更に優しい声音で聞き返しました。
口元には小さい子を慈しむ様な笑みが浮かんでました。
しかし、それは女の子が不意に立ち上がって背中越しに発した言葉によって凍りついてしまう。
「おめめちょうだい?」
その声は無邪気だが、それ故にぞっとする何かがあった。
それから女の子が何か得体の知れないものだと気付いて、離れようとしたが、金縛りのように身体が動かない。
そして、女の子がこちらに振り向いた。
両目があるはずの場所にはぽっかりと黒い空洞が空き、そこから赤黒い液体が垂れている。
「おめめちょうだい?」
そう、再び女の子は私の目を黒い空洞に捉えて呟いた。
途端に金縛りが解けて、私は一目散に自転車が止められているところまで走り、自転車を猛スピードで走らせようとする。
しかし、自転車に乗ってペダルを漕ごうとした時に右手を何かに掴まれた。
恐る恐る自分の右手を見ると、先程の女の子が私の右手の二の腕を掴んでいた。
「おめめちょうだい」
再びそう呟き、私の右手を恐るべき力でギリギリと締め上げてくる。
もう私はパニックに陥り、今思えば火事場の馬鹿力だったのだろう。
慌てて自分でも信じられないくらいの力で女の子の腕を振りほどき、自転車のペダルを全速力でこぐ。
後ろを振り返らずに自転車を夢中で走られせていたが、その耳に女の子が信じられないくらいの速度で走る足音と、不気味な声が聞こえ続ける。
「おめめちょうだい、おめめちょうだい、おめめちょうだい、おめめちょうだい、おめめちょうだい、おめめちょうだい、おめめちょうだい、おめめちょうだい、おめめちょうだい、おめめちょうだい、おめめちょうだい、おめめちょうだい、おめめちょうだい」
もう生きた心地がしませんでした。
それでも、ようやく自分の家が見えてきて、ホッと息を吐いた時だった。右耳のすぐ近くで「おめめちょうだい」とはっきり聞こえ、右側から小さな手が伸びてきて、私の右目に近付いてくる。
もうだめだ!
と目を瞑ろうとしたその時でした。
ガチャッと不意に私の家の扉が開かれて、父さんが出てきました。
それと同時に女の子の気配が消えました。
私はひとまず自転車を止めましたが、降りることも忘れて呆然としました。
「おかえり〇〇(友人の名前)。なんだ?家に入らないのか?」
その父さんの声で我に帰り、自転車のスタンドを立てる時間ももどかしく、自転車を横に倒して家のすぐ横にほっぽって家に駆け込みました。
父さんが何故家から出てきたかを後で聞いてみたら、単に夜中にジュースが飲みたくなり、家の前の自販にジュースを買いに行こうとしたらしい。
あの時に父さんが家から出てこなければどうなってたのかを考えたら、今でもぞっとする。
いや、それよりもゾッとしたのはそれから三日後の後だった。
それからはその女の子のことがトラウマになった為に、暫くは夕方までには帰るようにして、バイトも休んだ。
そうして、三日過ごした夕方に、私は衝撃的な話を聞いてしまった。
それは一人の私と同い年くらいの子が、何者かに両目をくりぬかれたという内容の話だった。
それは友達が親戚から聞いた話らしく、その被害者の子は精神を病みながらも、ベッドに横たわりながら「小さな女の子が……、小さな女の子が……」とうわごとのように呟いていたらしい。そして、その数日後にその子は絶命してしまった。
それを聞いて、再び三日前の夜に起こったことがが鮮明に思い出され、私は心の底からゾッとした。
それからもずっとそれをトラウマにしてバイトもやめてしまい、夜出歩くこともなくなってしまった。
それからようやく大人になってその恐怖を払拭することができたが、すぐにその恐怖が再び蘇った。
風の噂で、今度は既に成人した私と同い年くらいの子が両目をくりぬかれたらしい。
前の被害者も今回の被害者も今の私と同い年。それはつまり……私を探し続けているということだ。
そう思い至った時、私は恐怖で何も考えられなくなりました。
私が生きている限り、私は狙われ続け、私がそれを避ける度に違う人の目がくりぬかれてしまう。
そう悟った私は、いっそ目をくりぬかれようと自暴自棄になって、夜道をあの日と同じようにあの道を自転車で走っていた。
そして、案の定女の子があの日と同じ場所でうずくまっている。
私はゆっくりとその子に近付き、言った。
「私の目が欲しいんでしょ?あげるよ」
「ふ、ふふ、ふふふ。おめめちょうだい!」
そう元気いっぱいに女の子は振り返りながら叫び返した。
これまた案の定女の子の両目は黒い空洞がぽっかりと空き、赤い液体が垂れてきている。
そして、私の目にその小さな手を伸ばそうとしてきた。
私はとても怖かったが、それでもやっと恐怖から解放されると思って目を閉じた。
しかし、数秒経っても予想した痛みは訪れない。
「ひっ!?」
不思議に思って目を開けてみると、私は思わず驚きの声を上げてしまった。
私の方に手を伸ばす先程の女の子の身体を、二人の目のない女の人が掴んでいたのだ。
「おめめちょうだい、おめめちょうだい、おめめちょうだい、おめめちょうだい、おめめちょうだい、おめめちょうだい」
女の子はみるも恐ろしい憤怒の形相であの日と同じ背筋の凍る言葉を呟きながら私の目に手を伸ばそうとするが、二人の女の人が女の子の身体を掴んでそれを許さない。
それから徐々に女の子が引きずられていき、私から遠ざかって行く。
「おめ……ちょう………だい、お……ちょ……い……」
そして、完全に女の子の声が聞こえなくなった。
私はその場にへたり込んで数十分くらい放心していたが、やがて通りすがりの人に話かけられて我にかえり、自転車をゆっくりこいで家に帰った。
それから考えたが、おそらくはあの女の子の後ろにいた女の人二人は女の子に目をくりぬかれた女の人なのだろう。
私を助けてくれたという見方もあるが、それは違うとなんとなく思った。
彼女達は、女の子にただ復讐したかっただけなのだ。
女の子と同じ身体になってまで……
それでも、それから私は女の子に会うことはなくなった。
私の代わりに誰かが襲われたなんて話も聞かなかった。
けど、それから数年が過ぎたある日、私は聞いてしまった。
あの一度襲われた頃の私と同じ年頃の男の子が目をくりぬかれたと。
それを聞いて思った。あの女の子が標的を変えて目をくりぬいたのだと。
そして、今もあの女の子が目をくりぬこうと深夜を彷徨い続けているのだろう。
皆さん、小さな女の子が深夜路上の端にうずくまっていたとしても決して話しかけないように……。
逃げても彼女は必ず追いかけてくる。
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