
あれは大学1年の夏の頃の話だ。
その町では毎年8月上旬に商店街で祭りがあるのだが、その前夜祭でしこたま遊んだ俺は本祭に行くことなく家で寝て過ごしていた。
そのまま夜の寮食も食いそびれたこともあって深夜に空腹で目が覚めた。コンビニという気分でもなく、何気なく開いた地図アプリで早朝の5時まで営業しているラーメン屋が目に留まる。俺はそのまま携帯と財布だけを持って自転車に跨った。
目的のラーメン屋までは大通りに沿って交差点を2回ほど曲がるだけの簡単な道のりだ。だが、地元のド田舎から進学で来た町なだけあって、入学からの街への好奇心が未だ冷めやらぬ俺は交差点を通り過ぎた先にある川の天端に沿って行くことにした。
その道幅は軽自動車1台分しかなく、左右から雑草が大きく飛び出している。おまけに大通りとは打って変わって街灯もほとんどなく、自転車のライトと月明かりのみを頼りに進んだ。
徐々に暗闇に目が慣れていくにつれ、僅かな光でも遠くまで見渡せるようになった頃、道の向かいからこちらに向かってくる2つの人影に気付いた。顔までは見えないが浴衣を着た2人組の女のようだ。
それを認識したと同時に違和感も感じた。
日付も変わった深夜、祭りはとうに終わっている。にも関わらず2人の向きは祭りから帰るどころか明らかに祭りのあった商店街の方面に歩いてきているのだ。それだけではない。女性が2人いて何一つ話している様子もなければ、手元に携帯の明かりがあるわけでもない。
引き返そうにも自分もかなり道を進んでいたこともあり、しょうがなくすれ違う決心をした。
2人との距離はみるみる近づいていく。目を逸らそうにもこの狭い道でよそ見しながらすれ違う余裕は無かった。そしてすれ違う瞬間横目で2人の顔を見る。正気が無く、夜でも認識できるほど青白い顔。
「見るんじゃなかった...」
嫌な感覚を覚えながらも、何事もなくすれ違えたことに安堵し、立ち止まる。そして何気なく後ろを振り向いた。すれ違ってから時間にして2〜3秒。
そこには誰もいなかった。
それに気付いたと同時に異常な寒気と鳥肌に襲われた。すれ違うまでずっと認識していた。顔だって見たし、すれ違う瞬間の風の途切れすら感じていたはずなのに。
一心不乱に立ち漕ぎで逃げた。実家で何度か体験した謎の現象にも似た恐怖。天端を抜けるまでせいぜい3分程度の道のりが10分近いものに感じるほど心臓が締め上げられるような息苦しさだった。
後日談:
- 約1年後、俺はその地域の地理や歴史をフィールドワークを通じて学ぶ講義を取った。 その講義を受ける中で、街の境を区切るように流れる一級河川が全国屈指の暴れ川だと知った。治水の進んだ今でも年一、二回程度川の氾濫や市街地の浸水が起こる。昔の時代の地図とは地形そのものが違った。現代の治水でこの被害ならそれらのノウハウがまだなかった昔はより多くの死者を出していたことの裏付けだ。 個人の推測でしかないがあれは祭りの浴衣というより昔の時代特有の服装だったのではないかと思う。 当時の残留思念や地縛霊的なものかは分からないが、水というのはいつの時代も人の命を奪い続けてきた。生きるために水は欠かせないが、水場に霊が集まるという論理もあながち冗談ではないのかもしれない。
この怖い話はどうでしたか?
chat_bubble コメント(0件)
コメントはまだありません。



